ヘウン


□残像 7
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────....ヒョクチェ、




......あれ?誰か、俺を呼んでる?




────ヒョクチェ.... 。




...やっぱり呼ばれてる。...誰?




────ヒョクチェ、起きて...












( ....、ドン、...へ...?)




















*****







『.....っ、...あ、れ?』





うっすらと目を開けると、真っ白な天井。


それはびっくりするほど無機質で、感情を一切感じさせなかった。


そしてそんな天井と同時に、鼻の奥につんと刺すような薬品の匂い。


天井よりさらに白い蛍光灯の光が強すぎて、思わず目を細める。





そんな俺を、心配そうな顔で覗いてるのは....、






「...ッ、ヒョクチェ...!」

『...じゅん、す、』

「.....、ああ、俺が分かるか!?」

『...ぁ、たり、前、...じゃん、』

「...いい、無理して喋るな、
ここがどこかわかるか?
というかお前、自分がどうなってここに来ることになったか覚えるか?」

『...黙っ、たが、いいのか、喋ったが、...いいのか....どっち?』

「...ああ、ごめん、疲れてるよな。
静かにしてるから、休んでてくれ。」

『...じゅんす、ひとり...?』

「うん、今は俺しかいない。
お前の身の回りの事一番知ってるのは俺だし。」



『....、みんな、は....?』



「.....。」




『....、メンバーの、みんな、は...?』






ジュンスが表情を暗くしてうつむく。

なんでそんな顔をするのか、分かるようで分からない。


原因が自分だってことくらいは、いくら鈍い俺だってわかるけど。

でも、それとメンバーがここにいない事と、全く関係がないと思う。





「....ヒョクチェ、ごめん、」







怒ったような表情のジュンスは、
俺の髪を優しく撫でながら俺に言った。


突然ジュンスから飛び出た謝罪の言葉は、俺の欲しかった答えではなかったけど。


それでも俺は静かに笑う事しかできない。






『...、なに、なんで、ジュンスがあやまるの。』


「...俺がお前の近くにいさえすれば、こんな事には、ならなかったから。」


『...こんなこと、て、俺が、むり言って、ヒョンたちにだまっててもらっただけ、だから、』


「...だから、謝ってんだろ。」


『....、え?』


「...俺なら、お前がなんと言おうと入院させた。手術受けさせた。」


『...ジュンス、それは、』


「...ごめん、ごめん...。」






それは、俺が頼み込んだから。

ヒョン達の優しさに、俺がつけ込んだから。



心の中で必死にそう訴えようとするけど、目の前で泣きそうに顔をゆがめるジュンスを前にして、何を言っても無駄だと悟ってる自分が何処かに居て、

その自分は俺に口を開かせようとはしない。



ジュンスの謝罪は、ここにヒョン達がいないことに対する理由としての答えには全くなっていないのだけど、ジュンスが泣きそうなのを見て、俺はそれ以上何も言えなくなった。






お前がなんと言おうと入院させた。手術受けさせた。




ジュンスは優しい。


いつでも、俺に対して1番の愛情を注いでくれるのは、他でもないジュンスだ。




いつだって俺を一番に理解してくれてて、

いつだって俺を一番に見ててくれる。






そんなジュンスの気持ちに気付かないほど、俺だって鈍感じゃない。



何年もの間、飽きもせずに俺だけに注がれてきたその視線は、明らかに友人≠フ垣根を越えたものだった。



それに気付いたのは、一体何年前だったか。


それと同時に、その気持ちを素直に受け入れられない自分への嫌悪感と、ジュンスへの罪悪感が俺の胸を突き上げた。







『....ごめん、ジュンス、』


「...なんでお前が謝るんだ」







謝ってたのは俺だろ。



なんて笑いながら言うジュンスの顔は、今にも泣き出しそうで、

いつの間にか強く握られていた俺の右手は、酷く温かかった。





勿論、ジュンスのことは大好きだ。



優しいし、

俺の理解者だし、

格好いいし、

便りになるし、

面白いし、

気を許せるし、


.............。






ただ、俺にとってジュンスは親友だ。


それ以上でも、それ以下でもない。






(....ごめん、俺はドンヘが好きだから...、)






夜、布団に入って。


電気を消して。


目を閉じて。



俺は、ドンヘに抱かれる夢を見る。






ソンミニヒョンにもトゥギヒョンにも、何度か考え直すように言われた。




ドンヘを好きになったって、お前はきっと報われない


お前は、お前を大切にしてくれる人を好きになるべきだ













それを言われる度に、はは。て笑ってごまかしながら、心の中で悪態をついていた。




それができてたら苦労しない


て。









俺だって、自分が人を見る目がない事くらい自覚してる。



今まで好きになった人も、
今まで付き合った人も、


みんな、何処か歪んでいたから。






アンタは悪い人間ばかり好きになる


なんてそんな事、姉さんに言われる前からちゃんと自覚してた。




どうして?


悪いって分かってて、どうして好きになる?




そんなの、俺が一番知りたいっての。












『ねえヒョクチェ、君はいつも歪んだ人間ばかりを愛してしまうよね。


それは一体どうして?

悪人だとわかっていながら、君はどうしてその人を愛するの?


君はその人に何を求めるわけ?

結局、傷付くのはヒョクチェ、君自身じゃないか。


君のそれは、本当に愛情なの?』








ある時、ソンミニヒョンから言われた言葉をふと思い出した。


真面目な顔して近づいてきたと思ったら、いきなりの発言に、正直驚いた。




なに、何なの、いきなりそんな嫌味言って。


言いたいことがあるならはっきり言えば?



ソンミニヒョンの発言に少なからずイラッときた。


何が言いたいのかよく分からなかったから。




そんな俺の気持ちは表情から読み取れたのか、ソンミニヒョンは大きく一つため息をついた。





『...ヒョクチェ、恋は同情≠ニは違うんだよ。


確かに酷い人っていうのは、過去に何かしらの出来事があってそうなってしまったかも知れない。

そんな、哀れな人なのかもしれないよ。


でも、その同情心を恋と勘違いしちゃいけない。
それは君の自己満足だ。


君を愛してると言ってくれる人にも、君が愛してると思ってる人にも、両方に失礼だよ。


大切な事は、いつでも目に見えない。

目に見える範囲にあることは、手を伸ばせば届くからね。

だから君は、目に映らないことをもっと見ないといけないんだよ。』





もう子どもじゃないんだからさ、と付け足したソンミニヒョンが何を言いたかったのかは、結局よく分からなかった。


でも、俺に対して怒ってるってことだけはよく伝わってきて。





ああ、俺、駄目だな。








理由は良く分からないけど、ふとそう思った。





























『....ジュンス、ごめん...。』


「...だから、なんでヒョクチェが謝るんだ。」


『...おれ、ドンヘがすきだ...』


「.........。」


『...なにを言われようと、やっぱりドンヘがすきだ...。』


「.............。」



『この思いがまちがえだとしも、...ドンヘを愛してる...。』











眉間にしわを寄せたジュンスの顔は、俺の細くなった胸を締め付けるには十分すきた。









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