ヘウン
□残像 6
1ページ/2ページ
《イトゥク目線》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《SJ、楽屋にて》
「......。」
「......。」
「......。」
「......。」
「......。」
「......。」
・
・
・
・
・
・
楽屋の中に流れる沈黙を、俺はリーダーなのにどうする事も出来ない。
マネヒョンと俺は完全に焦っていて、どうしようかと頭を抱えている状態だ。
メンバーはどうしていいかわからず、ただ沈黙して腕を組んでいる。
ソンミナはしたを向いて、何を考えているかすらわからない状態だ。
「...ねぇ、ヒョクチェ、大丈夫なの?」
(...ちっ、空気の読めない...。)
俺は心の中で悪態をついた。
ここに来て沈黙を破り、声を発したのは他でもないドンへ。
明らかに不安の色が声からにじみ出ていて、ヒョクチェの事が心配、そんなところだろう。
...でも、違う。
ドンへの今出した声に含まれてる不安は、『風邪でも引いた?』『それとも、貧血?』って感じの”心配”だった。
他のメンバーは、詳しい容態はよく分かってはいないが、取り敢えずもっと大変な事が彼の体に起きているんだろう、それくらいは感づいているはずだ。
...ドンへ、お前はデビューしてからこの10年間弱、いったいヒョクチェの何を見てきたんだ?
どうしていつも一番近くにいたお前が、一番大切な時に気付いてやれない?
「...ねぇ、ヒョクチェ、『ドンへ、黙って』...。」
喋りかけたドンへの言葉を遮ったのは、さっきから下を向いていたソンミナだった。
「...、ヒョン...?...何か、知ってるの?」
『黙って、って言ったのが聞こえない?
...僕、今ドンへと話したら絶対にキツい事言っちゃうから。』
「......。」
ドンへが浮かべる困惑の表情に対する心の底からの怒りを、ソンミナは必死に抑えているのだろう。
握り締めた両手が、細かい震えを刻んでいる。
──────と、その時。
─────ガチャ
急に、控え室のドアがあいた。
俺たち全員が何があったのか確認するためにそちらへと目をやる。
その反応速度よりも早く、入ってきた人物は自分の目的の人物へと足早に近づいて行った。
「....ドンへヒョン!」
リョウクが慄然とした表情で叫ぶのと、入ってきた人物が目的の人物───ドンヘの頬を殴るのは、ほぼ同時だった。
────────バギ。
ああ、変な音。
大の男が手加減せずに本気で人を殴ると、こんな音がするんだ。
知らなかったな。
まるで、柔らかい木を硬い何かに打ち付けたみたいな、そんな音。
勿論その柔らかい木は粉々に砕け散って、跡形もなくなる。
本気で殴るって、きっと一番削られるのは殴った自分自身なんだろうな。
そのリスクを背負ってまで、殴らずにはいられなかったんだろう。
いきなり楽屋に入ってきて、なんの前触れもなくドンへを殴ったその人物もまた、
ソンミナ同様に、怒りに震えていた。
「...ッ、お前...ッ...!」
殴られてその場に尻餅をついたドンへを見下ろして、その人物は言葉を震わせながら言う。
メンバーはいきなりの出来事についていけず、ただただその光景を呆然と立ち尽くしながら見ている。
ソンミナは、止める気がないのか...、また下を向いて黙ったままだ。
「...ッ、何なんだよ...!
...なんであの状態で、ヒョクチェに抱きついたりした!」
「....はっ?」
「...今にも死にそうな、真っ青な顔してたじゃねぇかよ...ッ!」
「...ヒョクチェが?
...それ、メイクのせいじゃないの?
...なんで客席にいたお前が、ヒョクチェのすぐ隣にいた俺も気付かないようなことに気づけるわけ?
─────答えろよ、ジュンス。」
「...はは、笑わせる。
....気付かなかった?
戯言ほざいてんじゃねぇぞ、...。」
「...は?たわごと?何言ってんの?」
「SJの中で気付いてなかったの、多分お前一人だぞ...。」
「...なに、なんの話...」
「...この阿呆以外の全員、誰でもいい...、事情を知ってる奴!
...頼む、教えてくれ....!
何なんだよあのヒョクチェは!」
ジュンスの目には、不安の色と、抑えきれない涙が、滲んでいた。
「あいつのじいちゃんが死んだ時と同じ顔してる...!
...ヒョクチェは...、癌なんだろ!?」
時間が、止まる。
.