ヘウン


□残像 2
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*****



「...で、どうして三人とマネヒョンはいきなり四人でホテルに泊まるなんてしたんですか?」


リョウクが作ってくれた朝食を食べていると、キュヒョナが質問してきた。

俺は一瞬口から心臓が飛び出るほど驚いたが、表情は崩さないようになんとか堪えた。


知っての通りうちのマンネは恐ろしいくらい頭が冴えるから、ボロを出してしまったら一環のおわりだ。


「マネヒョンの友達が経営してるホテルでね、たまたま近くを通りかかったから泊まったんだ。」


俺の隣で年上とは思えないほど可愛く頬をふくらませながらもぐもぐとサンドイッチを食べているソンミニヒョンが答えてくれた。

流石はヒョン、同室であり付き合いも長い為か、キュヒョナの扱いになれてる。



「...ふーん、」

キュヒョナは怪訝そうな顔つきで俺たちを交互に見る。
目の下のクマ...、
またゲームのやり過ぎで寝不足か?

...いや待て、なんだ、どことなく怒ってないかこいつ?


「...キュヒョナ、昨日宿舎で何かあったの?」

ソンミニヒョンのその問いかけに、キュヒョナの顔は「思い出すのも嫌だ」と大きな文字が書かれているような表情に歪ませた。
そして明らかに俺を睨む。

「思い出したくもないですよ」

やっぱりか。
言うと思ったよ。

...で、なんで俺は睨まれてるわけ?


「...何があったの?」

俺は自分が睨まれている理由を知りたくてキュヒョナに問うた。

キュヒョナはさらに顔をげっそりさせながらも答えてくれた。

「隣を見て下さいよヒョクチェヒョン。
あなたの左半身に引っ付いてるそれが暴れ出したんです。」

「...左半身...」

俺の左半身に引っ付いてる...
...え、こいつ?









「おいキュヒョナ!俺はヒョンだぞ!
それとかモノ扱いするなよ!」

俺の左腕に自分の右腕を組ませた状態で朝食をとっているドンへが机の向い側にいるキュヒョナに向かって叫んだ。

「モノの方がまだマシですよ。
なんなんですかいい歳こいて昨日のあの泣き叫ぶ5歳児みたいな暴れ方は。」

「...暴れ出した...って、まさかドンへが?」

「それ以外に何が暴れられますか」

「おいキュヒョナ!実は昨日俺と一緒にタンコマも暴れてたんだぞ!?」

「アホも大概にしてください。
あなたのせいでかなり寝不足なんです。
ヒョクヒョクうるさくて眠れないし、ゲームしようにも集中できないし。」

「だって昨日はヒョクと寝る気分だったの!
確かにヒョクチェのベッドで寝たよ?
でも俺は本人と一緒が良かった!
なのにいきなり外泊!?ひどいよ!なんだよそれ!俺だってヒョクと2人で外泊したい!」








ドンへが俺の目の前で力説してる。


俺は胸が苦しくなって、食べている物が喉につっかえるみたいな錯覚に襲われた。










やめてくれ

そんな言い方



ドンへ、お前にとっては何気ないスキンシップかも知れない



でも、好きだって想いは人の心を掻き乱すんだ


正常な判断が、出来なくなるんだ





勘違いしてしまうから
お前が俺のこと好きだって。



俺と同じ気持ちでいてくれてるって








そんなありえない錯覚にまで陥ってしまうんだ













「...ドンへ、悪かったって。
今日は一緒に寝ような。」





苦しいと知っていても、ドンへを甘やかしてしまう自分が恨めしい。

ドンへの中で俺が特別だってことに、優越感を覚えてしまう。






こんなの自分の胸を締め付けるだけなのに。

苦しむのは俺だって、わかってるはずなのに。





叶うはずのないこの思いを、それでも伝えてみるだけ伝える。



トゥギヒョンが、マネヒョンが、俺にくれた勇気で。







俺は唯一自由に使える右手で、左半身に巻き付いているドンへの頭をくしゃくしゃ、と撫でた。

ドンへは本当に犬のように、俺の方を向いてにぱーっと笑った。



「ヒョクチェ〜!大好き〜!愛してる〜!」

「はいはいどうも、俺も愛してるよ。
...じゃあリョウギ、ご馳走様。」



「...え、ヒョクチェヒョンもういいんですか?
まだ少し残ってますけど...」

「もうお腹いっぱいだから。
美味しかったよ、ありがとう。」


「...はい...」




リョウギが心配そうな顔をして俺を見るから、俺は優しく笑って昨日の夜に食べ過ぎたんだ、と言った。


ソンミニヒョンの顔が曇った。




そりゃそうだろ。

昨日ホテルで口にしたものなんて、水くらいなのだから。





俺はもう一度ドンへの頭をくしゃ、と撫でて、部屋へと戻っていった。






ヒョクチェヒョンはドンへヒョンに甘すぎるんですよ、とキュヒョナが言った声が聞こえた。
















まだ大丈夫 。


まだ誰にも気づかれてないはず。






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