ヘウン


□コトバのチカラ
1ページ/1ページ











Speaker:Eunhyuk





言うつもりじゃなかったなんてのは後付けで。 

本当は伝えたかった。 

ただ見てるだけで良かったのが、たまたまダンスのレッスンで一緒になって、たまたま声をかけられて、接点持って挨拶交わすようになって。
たまに並んで座る自販機コーナーのソファーでたまたまお互いの膝が当たって、そこが熱を持ったようにジンジンして。
立ちあがりざまに肩が触れれば動けなくなってしまう。
ふざけたふりしてし冗談を言いながらなだれ掛かるなんて俺にはできなくて逆に距離を保つ努力は意識をしていない相手によって崩れ去ることもしばしば。 

ざわめくレッスン室でオレの声が聞こえなくて「ん?」なんて首を傾けて言われた日にはもう。 


ああ、もうダメだ、と。 

気付いてほしい。オレの気持ちに。 
いや、違う。 
ただただ、溢れてしまうんだ。


『好き、』


そうドンヘに告げると彼は眠そうな目を少しだけ開いて「うん」と頷いた。 
ざわめく室内でその言葉だけがハッキリ聞こえる。耳って不思議だよな。聞きたい音だけ拾えるんだから。


「じゃあ付き合う?」
『えっ!?』
「え?違うの?」
『いや!!違わない!!』


考えるより先に口が動く。俺の悪いクセだがこの時ばかりはこのクセに感謝した。 


「じゃあ、よろしく」


ドンヘはニコリと笑うと拳を突き出してきたので、俺はその拳に自分の拳をコツンと当てる。
レッスン終わりのうっすら汗の張った手ですら綺麗なのだから、本当に困ってしまう。

その綺麗な手に、彼の眩しい笑顔に。
また何度目かの恋に落ちた。




でも。

俺とドンヘの関係はあまり、とゆーかまったく変わらなかった。

ダンスのレッスンで一緒になっても、終わったあと人気の彼は俺が話しかける前に他の誰かにご飯に誘われてしまう。
あっさり快諾笑顔でするのを見ると、彼に悪気はないのだろう。そう思って声をかけるのを諦めていると、たまに彼から声をかけてもらえる。このあとご飯どう?なんて。でもそうじゃない時は、軽く手を振って終わりだ。

たまに行く格安が売りのファミレスでする事も、いつだってダンスやデビューの話ばかり。
机の上に置かれた綺麗な手は相変わらず輝いてるけど触れることも出来ない。

帰り道でそっと甲を触れあわせてみたけど「あ、ごめん」とポケットに仕舞われてしまった。
夜、去り際に「おやすみ」と伝えれば優しく「うん、おやすみ」と返してくれる。それだけだ。 





そんな状態が3ヶ月。 


なんで付き合ってくれたんだろう。 


こんな時に限って聞きたくない話は耳に入ってくる。 


「でさ、ヒドイのよ。嫌いじゃないから付き合ってる、とか言うの!!」 
「はぁ?どゆこと?」 
「だから、告白されて断る理由もないし、ふるのはめんどくさいんですって!」 
「何それ。ありえない」 
「マジ友達辞めようかと思ったわ」


おい待て誰の話だそれは。固有名詞を言えいや言ってください。 
練習生の女の子たちが自販機で飲み物を買いながらしている会話は聞かれているという意識が全くなく赤裸々である。 

聞き覚えのある声に顔を上げると知り合いの女の子で、俺の存在に気付いて会釈をしてくれたらしい。
当たり障りのないことを言ってオレは鉄壁の対人用スマイルで事を流した。 

歌のレッスンが終わって帰路につこうとした時、ほかの練習生たちが噂話をしていた。その会話の中から気になる名前が聞こえてオレの耳はつい会話を拾ってしまう。


「さっきも二人きりで話してて。いい感じの雰囲気だったよ。しばらく彼女いなかったみたいだけど、ドンヘもついに年貢の納め時かな。羨ましいよなぁ」 
「あんな美人でスタイルも性格も良くて、落ちない男なんかいねぇだろ」 
「だよな。もう付き合ってるっぽいしな」 
「マジか」 
「おう。2人でなんか個室のレストラン入ってくの見たってヤツがいたぜ」 
「お前じゃないのかよ!」


ぐわん。 


噂だ。 
噂なんだけど。 


『...まじかぁ』


目から生温い液体が溢れて止まらない。 


『あー、泣くとか、女々し...。いや、ガキか』


くだらないことを言って誤魔化そうとしても涙は止まらない。 

ああ、そうだ。 
俺は女々しくもウジウジ泣いてる。練習所の裏にある俺の秘密の隠れ場所でしゃがみこんで草をむしりながら泣いてんだ。 

ドンヘが分からなくて。 
付き合う前の方がもっと知ってた気さえする。 

俺はドンヘの何を知っていたんだろう、どこが好きなんだろう。 
整った顔。ダンスの実力。デビュー間近な事務所の期待の星。

違う。俺が知ってるのは。

強くて、優しくて、不器用で。少し抜けててドジで。俺のくだらない話も真面目に相槌を打ちながら聞いてくれて、いつだって優しくて、一所懸命で。
クールぶってるように見えて、実際は微笑ましいくらい天然で。でも、やっぱりとびっきり格好いい。 

全部だ。

自分が期待されてることをプレッシャーに思ってるだろうに俺に言わないところも、それでもたまにひどく落ち込んで、俺がこっそり置いていった差し入れのココアにとびきり喜んでいるところも。

全部、全部好きなんだ。

どうやって諦めたらいいのか、もう分かんない。




「...どうしたの」

 
なんだってこんな時にこの人は現れるかな。ここ、一応俺の秘密の場所なんだけど。誰にも教えたことないはずなんだけど。
俺は鼻を啜りながら振り返った。ドンヘはいつも通りカッコよくてまた涙が出そうになる。 


『...なんでも、ない』 
「ん?」 


ドンヘが小首を傾げる。 

ああ、もう。 
もう。 

なんでもなくなんかない。心配そうに俺を見ないで。俺を見て。優しくしないで。甘やかして。
相反する感情が俺の頭と心を支配する。


『...俺のこと、好き?』 


考えるより口が先に動くのは俺の悪いクセだ。 
俺の言葉を聞いた瞬間、ドンヘが眉間にぐっとしわを寄せる。

その瞬間、告げられる、と思った。 
断りの言葉を。最終通告を。

聞きたくないけど聞かなくてはいけない。優しいこの人に甘えていた罰だ。 
形のいい唇が動く。


『...好きじゃなかったら付き合うわけないでしょ』


ドンヘの言葉が一瞬理解出来ず、頭の中でリフレインした。ゆっくりと口に入れ、丁寧に咀嚼し、大切に大切に飲み込む。そうしてから、やっとその言葉を理解する。

ああ。 
ああ、そっか。 
そうだった。 

俺はいつも大事なところを見落としがちだ。 
言葉を失った俺にドンヘは眉をへにょりと下げ笑いかける。


『...なんて、俺が悪い。不安にさせて』
「ちがう、ドンヘは!!」 
『...好きだよ、ヒョクチェ。ヒョクチェ以外目に入らないくらい。...仕草や声、笑顔も涙に濡れた顔も全てを愛してる』


そんな顔と声で言われたら俺はもう。 


『俺、あんまり器用な方じゃないから。言葉足らずだし、行動も少ないし、人間として未熟なの。だから、...ごめんなさい』


ドンヘは困ったように涙に濡れた俺の手をそっと握る。 


「いまだって、ヒョクチェが何考えてるか、全然わからない」 
『...ドンヘがドン引きするような事考えてる』
「どんな?」 
『...もっと近くにいきたいって...』
「いいよ」 


握っていた手を離し、こちらに差し出しドンヘが言った。 


「おいで」 


おいで、なんて。
それは魔法の言葉。 


吸い寄せられるようにゆっくり近付くとドンヘは左手でオレの腕を掴み引き寄せる。ぽふんとシャツの襟にオレの顎が乗り、ドンヘは俺の背中に手を回し包み込むように抱き締めてくれた。
体格はそう変わらないはずなのに何故かすっぽりと包まれてしまう。温かくて心地よい。 



「ヒョクチェは抱き締めてくれないの?」


耳元で吹き込まれた言葉は俺の体温と鼓動をぐいと引き上げる。言われるまま、というかもっとくっつきたくてドンヘの背中に手を回し鼻を首元に埋め形を確かめるかのようにしっかり抱きついた。


「他には?」


また耳元に囁かれる。


『え?』
「他にして欲しいことや、したいこと。あるんでしょ?言って」


...ああ、俺は何を1人で悩んでいたんだろうか。
ドンへはちゃんと聞いてくれる。付き合うってそういうことなんだと俺は今更ながら気付いた。


『あのっ』
「うん」 
『映画、見に行きたい...』
「いいよ。見よ」 
『気になってるスイーツショップが、ある』
「うん、行こうか」 
『花見とか、行きたいな』
「お弁当作ってくれる?」 
『サッカー観戦とか、したい』
「試合日程調べとかなきゃね」 
『たまにはこうやって、抱きつきたい』
「いつだって」


胸が一杯になり言葉に詰まる。
ドンヘが「ヒョクチェ」と小さく呼んできたので俺は上を見た。



「俺は、今、ヒョクチェとキスがしたい」


真っ直ぐ熱のこもる目で見られて頷かない奴なんているんだろうか。いや、俺は頷かなかった。
頷く代わりにそのままドンヘに唇を寄せた。柔らかな唇は当然のことながら熱を感じる。
しかしどうしたことか。ドンヘがそのまま動かなくなってしまった。

やっぱり俺からなんて嫌だったかな、と口を離すとドンヘは我に返って焦ったような顔で俺の後頭部に手を添えるとそのまま食らいついてくるかのようなキスをしてきた。

頭が固定されているから動かすことができない。ドンヘの歯が俺の前歯に当たりカチンと音が響いた。
ドンヘはそんな事気にも留めず角度を変え俺の唇を優しく食む。

何度も。何度も。

ザラリとした舌の感触で漸く俺は動揺したドンヘとかなり深いキスをしている事に気付いた。
ドンヘの舌は器用に動き頬の内側や歯列をなぞられ俺は息をする事すら忘れてしまう。

やっと口が離された時にはお互い息が上がっていた。動画の呼吸が乱れているのなんて、ダンスの時以外で初めて見た。


『....』
「.......」 


くすぐったいような沈黙が俺達の間を流れる。オレがドンヘをぼんやりと見つめていたらドンヘはプイッと横を向いた。
気に触ったようなことをしてしまったのか、と不安に思っていると、ドンヘは目元を片手で覆いながら小さく呟く。


「...頼むから、あんまり煽らないで」 
『へ?』
「そんな潤んだ目で見られたら、理性保てません。俺ね、優しくしたいの」


何を言っているんだろう。


『ドンヘは優しいでしょ。』


何を当然のことを言わせるのか。
それに。


『...俺、ドンヘになら何されても平気だよ?』



考えるより先に口が動くのはヒョクチェの悪いクセだよ、好きだけど。
そう囁かれたのはグズグズに甘やかされ蕩けきった後だったので俺は次に活かせることはできなかったのである。







fin.




※文体というか書き方を変えてみたのですが、予想以上に慣れなくて気持ち悪くて。

元に戻そうと思います....スミマセン


.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ