石神秀樹

□悪夢
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「ごめんなさい」

そう言って彼女は涙を浮かべた

「本当に・・・ごめんなさい」

涙をこぼしながら俯いてしまう
この部屋の合鍵をテーブルに置くと
そのまま出て行ってしまった

石神(羽純・・・)
オレは追いかけなかった
いや、追いかける事など出来なかった

つまらないプライドからなんかではない
そんな余裕などあるものか
彼女の言葉に、頭が真っ白になってしまったのだ
冷徹なサイボーグと呼ばれたこのオレが・・・

石神(終わりというのは、あっけないな)
まるで他人事のような溜息をもらす
ソファーに深くもたれると、ぼんやりと天井を眺めた



−−−早朝と呼ぶにはまだ早く
空にはまだ月が残り、夜も明けきらぬ時間
自宅に戻ったオレが目にしたのは
ソファーに座ったまま、力なくオレを見た羽純だった

『・・・お帰りなさい』
精気のない声
薄暗がりに佇む彼女に、ゾクッと背筋に冷たいものが走る
石神「ただいま」
反射的に返した言葉は宙へと消えた

オレの本能が警鐘を鳴らしている

昨夜、帰れなさそうだと電話した時
彼女が「話したい事がある」と言っていたのを思い出した

「待ってますから・・・」という言葉に
何かを決意したような気配を感じたのは、気のせいではなかったらしい

部屋の電気を点けるのも忘れ、動く事も出来ず
彼女から視線を逸らせる事も出来ないでいた

石神「羽純、いつからココに?」
勤めて冷静な声で問いかけてみるが、彼女は答えない
『・・・秀樹さん』
ふいに、彼女の声が大きく響いたような気がした

『私・・・もう、疲れました・・・』
その言葉に全てを悟る
いつも待たせてばかりいるオレに、何が言えるだろう

『私は大丈夫だって思ってた
 でも・・・』
ゆっくりと立ち上がり、彼女は哀し気にオレを見る
『ごめんなさい』
薄暗がりの中、見えるはずの無い彼女の涙が見えた

『本当に・・・ごめんなさい』
手に握り締めていたらしい、この部屋の鍵
そっとテーブルに置くと、彼女はオレの横を通り過ぎ
少し間をおいて、パタンとドアの閉まる音が響く

オレは振り返ることすら出来なかった・・・
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