石神秀樹

□警視の、とある休日
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よく眠った気がして目を覚ます
自宅のベッドで眠ったのは、いつ以来だろう

ベッドサイドの時計を見ると、AM5時
かなり眠ったような気がしたが、この程度かと苦笑を浮かべた

朝食をとり、サイフォンでゆったりとコーヒーを淹れる
ソファーへ移動すると、昨夜持ち帰った書類に目を通した
コーヒーに口を付けつつ、厳しい表情で書類をめくる
とりわけ難しい案件ではないが、所々に少し指示を書き込んだ

フッと溜息をつくと、空になったカップを持って立ち上がる
再びコーヒーをカップに注ぐと、窓際へ歩み寄った

気持ちよく晴れ渡った空
穏やかに空を見上げたのは久しぶりな気がする
石神「出掛けるか・・・」
ポツリとつぶやくと、身なりを整えて部屋を出た

駐車場には、滅多に乗ることのない愛車
それでもエンジンをかけると、心地よい音を響かせる
少しホッとしながらハンドルをきった

高速に乗り、スピードを上げながら
ふと、羽純はどうしているだろうかと考える
きっと、いつもの様にSP達に構われているのだろう

困ったように微笑んだり
嬉しそうに笑っていたり
思い浮かべるのは笑顔ばかり
気付けば、いつの間にか自分も笑みを浮かべていた

まだ誰のものでもない羽純の心を手に入れたい

けれど、公安に居る自分には眩しすぎる存在で
手を伸ばすことを自ら禁じた
それが、こんなに苦痛になるなんて・・・

そして
高速を降りた場所は静かな町
さらに郊外へ出ると、山手へと向かった

登っていった先には小さな展望台
そこは、あまり人が来ない静かな場所で
たまに1人で訪れる、お気に入りの場所の一つ
付近は真っ赤に染まった紅葉に彩られていた

石神「いい時期に来たようだな」
車から降りて見上げると、ハラリと紅葉が舞い落ちてくる
柵の方へ歩み寄ると、しばらく寄りかかりながら木々を見上げていた

もし、羽純をここに連れて来たら
嬉しそうに木々を見上げているのではないだろうか
あのキラキラとした笑顔を見せてくれるのではないだろうか
そんな姿を空想すると、愛しくて苦しくなる

石神「羽純さん」
そう呟いた声は木々のざわめきに消えていく
石神「貴女が・・・欲しい」
それは、紅葉だけが聞いた本心

フッと自嘲気味に笑うと車に乗り込み、来た道を戻る
甘くて切ない空想から、現実に戻るために
『公安の鬼』と呼ばれる自分に戻るために・・・

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