短篇

□君の匂いに包まれて
1ページ/1ページ




寒い。
寒い筈なのに暖かい。
右手からじんわりと伝わってくる熱と、その行為に対する緊張と照れのせいで、顔まで赤く熱をもっていた。


好きだなぁ、と思う。
切れ長の目も、サラサラの紫がかった髪の毛も、挑発するような笑みを浮かべる唇も、意外と骨張った手も全部
全部全部大好き。



ぎゅう、と右手に力を入れれば優しい瞳が私をみた。すぐに右手に力強い感触が返ってきた。
彼は満足そうに笑って、また前を向いた。



もう、私の家が見えてきた。


(離れたく、ないな……)


そう願ったのに、彼の手は簡単に離れてしまった。


「…!……」

『あ……』


無意識のうちに、私の右手は彼の左手を捕まえていて、


『えと……なんでもない、よ』


そう呟いて、彼の手を離す。



(なにやってるんだろう、私…)



寒い中高杉くんを待たせたくなくて、『送ってくれてありがとう。おやすみ。』といって手を振ったけど、
その手を急に高杉くんに引っ張られ、私は高杉くんの腕の中に収まった。



『あ、の…高杉くん…?』


困惑する私の額に、何か柔らかいものが押し当てられた。
額にキスされたのだと、3秒後くらいに気付き、私はまた、顔を赤くした。


「じゃあな。また明日。」


満足そうに歩いていく高杉くんの背中が寒そうだ。
離れたのに高杉くんの匂いが消えない。
と思ったら、自分の背中に高杉くんのパーカーがかかっている事に気が付いた。


『…ありがとう……』



遠くなる背中に、私は呟いた。





君の匂いに包まれて



私はそっと、目を閉じた。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ