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□憎しみの果てに得たもの
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「私が好きなのは葉だけよ」
「そうかい」
アンナの唐突な言葉に何の驚きも示さず努めて冷静に返事を返す。
む、とアンナの頬が膨らんだ気がした。
それから小さく鼻を鳴らしてバサリと大きな音をたてながら新聞を広げる。
俺とアンナを隔てる新聞が、アンナの表情を隠す。
今どんな顔してるんだろう。浮かび上がった好奇心を抑えるつもりはなかった。
アンナの顔を隠す新聞を掴み、一気に手を下へ。
バリッ。新聞が破れる音がした。
ぽかんとしたアンナのマヌケ顔を拝めるだろうと期待してニヤついていた俺は、
新聞の奥にある鋭い眼光に体を硬直させた。
「破けたんだけど」
「……葉が好きなんだって?」
謝る気にはなれなかった。新聞を破いた事は申し訳ないが、アンナだって俺の恋心を破り捨てたようなもんじゃないか。
「そうよ」
俺を睨むアンナの目。
真っ直ぐ見ることは出来ずに視線をそらした。
「悪い?」
悪かねえよ。そう言おうとしたが口がカラカラで何も喋れなかった。
「…羨ましい?」
アンナの質問が何を指すのかがわからなかった。
羨ましいとは、葉のことなのか。相思相愛ということがなのか。
どっちにしたって違うようで同じで、俺は葉が勿論羨ましかった。
アンナの「好き」を独占できる葉が羨ましい。
呑気な癖に強くて人望も厚い葉が羨ましい。
好きな相手の隣りに居られる葉が羨ましい。
俺にはないものを持ってる葉が、羨ましい。
「女々しいな、俺」
フン、とアンナが鼻を鳴らした。
俺には何も、ない。
憎しみの果てに得たもの