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□懐かしく感じるのは、それがすでに過去の出来事だから
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炊きたての飯を空腹に耐え切れずかっこんでいると、アンナがテーブルをはさんで向かいに座った。
タダ飯だとは思わないでね、という冷たいお言葉。だから炎によるのは嫌だったんだ。コンビニで飯を買おうにも金がないからし方がなかったのだが。

ふとアンナの手元を見る。持っているのは古ぼけた銀色のストラップ。


「これ、懐かしいわね」


そう聞いて少し切なくなった。
アンナとお揃いのケータイストラップ。アホみたいだが幼い頃の自分はこれをつけて喜んでいた。
アンナがどうだったのかはわからない、着けたのかさえわからない。
ただ結ばれる事はない関係の中で、二人同じ装飾品というのはやはり嬉しいものだった。

もう終わったんだ、と静かに理解した。それは俺の内側にじわりと滲み広がっていく。

わかってたさ。アンナに子供が出来て、もうこの関係は終わりにしましょ、と言われた時に。
それなのに馬鹿みたいに俺は、その時からも今までもこれからもアンナを愛していた。


「懐かしいな」


思い出そうと思えば昨日のように鮮明に思い出せる。
本当は1ミリだってそうは思っていなかったが、ぽつりとそう口にした。
それはぼんやりとした霧のように意味を持たない言葉だった。

このストラップは一体どこから出てきたのだろう。
気がつけばアンナが手にしていて、そして柔らかな笑顔で「見て」と呟くように言っていた。

俺のストラップはアンナと別れた時に捨てた。
ならばこれはアンナのものなのだろう。そのストラップに、使われた形跡は、ない。



懐かしく感じるのは、
それが既に過去の出来事だから



 

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