その他 book
□懐かしく感じるのは、それがすでに過去の出来事だから
1ページ/1ページ
炊きたての飯を空腹に耐え切れずかっこんでいると、アンナがテーブルをはさんで向かいに座った。
タダ飯だとは思わないでね、という冷たいお言葉。だから炎によるのは嫌だったんだ。コンビニで飯を買おうにも金がないからし方がなかったのだが。
ふとアンナの手元を見る。持っているのは古ぼけた銀色のストラップ。
「これ、懐かしいわね」
そう聞いて少し切なくなった。
アンナとお揃いのケータイストラップ。アホみたいだが幼い頃の自分はこれをつけて喜んでいた。
アンナがどうだったのかはわからない、着けたのかさえわからない。
ただ結ばれる事はない関係の中で、二人同じ装飾品というのはやはり嬉しいものだった。
もう終わったんだ、と静かに理解した。それは俺の内側にじわりと滲み広がっていく。
わかってたさ。アンナに子供が出来て、もうこの関係は終わりにしましょ、と言われた時に。
それなのに馬鹿みたいに俺は、その時からも今までもこれからもアンナを愛していた。
「懐かしいな」
思い出そうと思えば昨日のように鮮明に思い出せる。
本当は1ミリだってそうは思っていなかったが、ぽつりとそう口にした。
それはぼんやりとした霧のように意味を持たない言葉だった。
このストラップは一体どこから出てきたのだろう。
気がつけばアンナが手にしていて、そして柔らかな笑顔で「見て」と呟くように言っていた。
俺のストラップはアンナと別れた時に捨てた。
ならばこれはアンナのものなのだろう。そのストラップに、使われた形跡は、ない。
懐かしく感じるのは、
それが既に過去の出来事だから