SOUL EATER book4

□死神にも死は訪れるのか
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父のように完璧な死神になった。父はそのせいで死んだが俺は嬉しく思った。
”完璧”に美を見出していたからではない。父を憎んでいたわけでもない。
これでやっと俺もマカやブラック☆スター、ソウルや椿に並ぶ完全な人になったのだと、
皆と同じ位置に立てたのだと、俺の心を喜ばさせるのはそういう理由だった。
死神は人じゃないという意見もあるだろう。でも俺と人との違いはなんだ?頭の三本線か?日焼けしない肌か?性格?
そんな訳はない。俺は人だ。人と俺に違いはない。だから俺は人なのだ。
そんな簡単な問題、ブラック☆スターにだって解ける。
俺は人。人間。完璧な死神になったからこそ言える。俺は人間なんだ。そんなこと、わかりきっていたことだ。



「俺はわかってなかったんだ」

「なにがだよ」


リズは重たそうに口を開きいつもの乱暴な口調で言った。
彼女はいい子だから、意識すれば上品な喋り方だってできただろう。それをしなかったのはきっと、自分を見失わないためだったに違いない。
でもおそらく俺の考えることは見当違いに相違ない。何せ今までそうだったのだから。


「俺は死神だった」

「知ってるよ」

「俺は死神なんだ」

「ああ、知ってる」


会った時からな、と笑うリズはいつもと同じで、パティはリズに肩を貸しながらのそのそ歩く。
後ろには点々と血の跡が続いていた。


「そんなことより大丈夫かよキッド、その傷」

「俺は死神だ」

「聞き飽きたよ、それ」

「死なない」


パティが顔をあげた。呆れ顔のリズはさらに呆れた顔をした。


「死なないって言われても、死にそうな傷だから心配してんだよ。安心させるためか知らないけど大げさなこと言うのやめてくれ」


ボタリ。気色の悪い音を鳴らしリズの腹部からなにかが滴った。
それに気づいたリズが「あぁ」と声を漏らす。
腹部を押さえようとしたリズの左手を掴み、肩に回してパティと同じようにリズに肩を貸す。
「お姉ちゃん」と震えた声に鼻の奥がツン、と刺激された。


「リズ、お前はもう死ぬが、俺は死なないんだ」


ふざけんな、と声が聞こえた頃には俺は頬を殴られ尻餅をついていた。
支えをなくしたリズがよろめき倒れこむ。パティはそれを気にも留めずギリギリと歯ぎしりを鳴らした。
拳を強く握り込み、俺を殴ったその拳は痛々しく赤くなっていた。


「お姉ちゃんは死なない」

「死ぬんだよパティ」

「お前が」


そこまで言って押し黙る。それを見て俺はため息を小さくついた。


「俺が、殺したようなものだ」

「まだ死んでない」

「それはすまない」


リズはこのやり取りを何を思って聞いていたんだろう。絶望一色だったに違いない。
俺は人間じゃなかった。傷は痛むが命の危機は感じない。いつものように時間の流れはゆっくりだった。
リズが死んでもこの流れは変わらないのかと思うとこの世が嫌になった。
なんて残酷な世の中なのだろう。
誰が死んでも生き延びるなんて、父上はなんて残酷な命をこの世に作ったのだろう。
泣いてはいけない。心の中でそう囁いた。
2人の前で弱くあってはいけない。俺は死を司る神なのだから。
じわりと滲む涙の存在に気付いて俺は顔を下に向けた。


「お姉ちゃんさぁ」


ぽつりとリズが言った。声は震え力が感じられない。
もう死ぬのだろう。なんて儚い命なんだ。リズの声を聞きながら俺はぼうっとそんな事を考えていた。


「お姉ちゃんは、パティもキッドも、仲良くしてるのが一番楽しかったよ」


ふらりと立ち上がりパティを捕まえ、尻餅をつく俺のところへよろめきながら歩いてくる。
もう足を上げる元気さえ残っていない筈なのに。
ぼたりぼたり赤黒い何かを滴らせ歩くその光景が俺は恐いと思ってしまった。

ぎゅっと、リズは俺を抱きしめた。パティも一緒に。


「仲良くしてくんなきゃ、困っちゃうな」


ははは、と笑うリズに今度こそ涙が流れ落ちた。
俺の寿命を分け与えられたらいいのに。パティにもリズにも等しく分け与えて、三人で長生きして三人で一緒に死ねたらいいのに。
俺は死神のくせになんて弱い心をもっているのだろう。


「リズは強いな」


そっと腕を2人の背中へ回す。パティの泣きじゃくる声の中で、リズの呼吸は次第に弱まっていった。


 

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