SOUL EATER book4

□痛みは生きている証
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マカはよく本を読む。
俺の部屋にあった絶滅危惧種並みに少ない本達も1日で全部読んでしまった。
「読んじゃったから新しいの入荷しといて」というマカのお願いに苛立ちを覚えながら絵本を沢山買い込むと、
そうじゃないと本の角でチョップされた。小説が読みたいらしい。

マカはよく昼寝の為にベッドに潜り込む。
「寝るから入ってこないでよね」と言う日もあれば「一緒に寝てくれてもいいよ」と言う日もあるので本当に子供の思考は理解できない。

高いところに物があればマカはよく子供用の椅子を踏み台にする。
それでも届かなければガタガタと戸棚を揺らして物を取ろうとするので、
俺が慌てて手を貸してやる。



ガリ、という音と同時に襲ってきた痛みに顔を曇らせる。
抱きついていたマカを押し剥がしてずきずき痛む耳を押さえると、ぬるっとした感触と、指についた赤。


「噛んだ?」

「噛んだ」

「なんで?」

「痛いかなって」

「痛いわ」

「生きててよかったね」

「意味わからんわ」


戸棚の上の救急箱を取り出す。中を漁って絆創膏を出して、鏡の前へ。

マカが欲しいと言った姿見。
背ちっちゃいんだから手鏡で十分だろと笑ったら「わかってない」と頭を叩かれた。


マカのせいで部屋に家具が増えた。
部屋に生活感が出たのは喜ばしいことだが、ごちゃごちゃ物があるのは喜んでいいことなのか。
気を抜くとすぐ散らかして物を失くしてしまうからと、部屋にわざと物を置かないようにしていたのに。


(調子が狂うな)


部屋を定期的に片付けてくれるのは素直に嬉しいが、そこまでされるような事を俺は何もしちゃいない。

鏡を見ながらずきずき痛む傷へ絆創膏を貼り付ける。
じわりと滲んだ血を見て、高校時代にピアスを開けたことを思い出した。
結局開けた瞬間に飽きてすぐにピアスをゴミ箱に捨てた。

あの時よりは幾らかマシな痛み。絆創膏に滲んだ血を親指と人差し指で押しつぶす。じくじく痛む。


「ブラック☆スターは、痛いのが好きなの?」

「あぁ?」


俺の服を掴みながらマカが問う。
「それやめて」と言いたげに俺の手を見つめて、俺は我に返って傷を押しつぶしていた手を放した。


「死んでるみたいなのにね」


何がだ、と心の中で呟く。
俺のことを言ってるのはわかっていた。


「前世の俺はどうだった?」

「生きてたよ。死んでるのに、生きてるみたいだった。私は前世で死ぬまで、あんたが帰ってくるって信じてたよ」


帰ってこないのにね、とマカが目を伏せる。
帰ってこなかったんだな、と呟くとマカは小さな声でうんと返した。

まるで本当にあったことのようにマカが話すもんだから。
俺は自分の姿を鏡で見つめながら、「悪かったな」と謝った。
…話を信じた訳じゃないが。


「今のブラック☆スター見てると、私辛いよ」

「……」

「生きてるのに死んでるみたい。まるで前と逆じゃない」

「……」

「前の元気さはどこにいったの?」

「うるせぇよ」


放っておいてくれ、と。そこまで言いそうになった唇をぎゅっと噛む。
視線を向けることができなくてマカがどんな顔をしてたかはわからない。

マカの目も見ず「気が済んだら帰れよ」と告げて、俺は自室に入って扉を締めた。
今日はどっかに連れてってやろうと思ってたのに最悪だ。

部屋に入って目に飛び込んできた物に吐き気がした。
右を見れば本棚に並んだ小説が。左を見れば子供用の椅子。前を向けば黒のベッド。
全部全部マカの為に買ってきた物。


(ガキ相手に何マジになってんだ)


俺はふて寝することを決めて、起きたら謝ろうと決めて、ベッドの中に潜り込んだ。



痛みは生きている証


 

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