SOUL EATER book4
□紅蓮の炎
1ページ/1ページ
あれから彼は私の誘いによく乗るようになった。
会ったばかりの頃は何を警戒してか、10回誘って1回乗ってくれたら良い方。
けれど、会った所で何になるのだ。
前世での楽しかった日々が戻ってくる訳じゃない。そもそもブラック☆スターもマカちゃんもいないのに、私たちは心の底からこの人生を楽しめるだろうか。
「マカちゃんが亡くなってから変わってしまったね」
アイスティーにシロップをいれながらポツリと呟く。
ぴたりとコーヒーを掻き回す彼の手が止まって、失言だったかしらとその表情をちらりと盗み見ると、
彼はブラックコーヒーを飲んだ時のような顔をしていた。
「そのマカはアイツが死んでから変わってしまったよ」
ブラック☆スターのことを言っているのだとすぐにわかった。
あの人が死んでから、共鳴連鎖のように私たちはどんどん不幸になって死んでいった。
最期まで変わらなかったのは最初に死んだブラック☆スターだけだった。
「キッドくんはどうしてるかしら」
「リズとパティと仲良くやってるだろうよ」
鬼神に臨んで月に閉じ込めるまで行った私たちだったけれど、仲間が一人死んでから途端に弱くなった。
マカちゃんは毎日後悔し、死んで。
ソウルくんは耐えて耐えて、けれど死んだ。
戦いの場に身を置く私たちが早死にするのは致し方のないこと。
でも私は一体どんな死に方をしたのだろう。
印象が強い記憶しか持たず今世に生まれ変わった私たちは、こうして喫茶店で会ってお互いの情報交換をしながら前世を思い出してきた。
ブラック☆スターのことは私が。マカちゃんのことはソウルくんが。ソウルくん自身のことは私が。分からない所は想像で補って。
けれど四人の中で最後に死んだ私のことは前世の私しか知らず、その記憶を今世の私は持っていなかった。
今世の彼と私は同い年。ということは死んだ年が同じということ。
俺と同じ年に死んだのだから俺がキッカケなんじゃないか。
そう結論づけた彼に私は特に何も思わず納得した。
死にそうだと思ったからだ。
ブラック☆スターもソウルくんも失くした私は、自ら命を断ちそうだと。
彼は私の意見に首を振った。お前はそんな奴じゃなかった、と言いたげに。
「弱いわね、私たち」
「人間だからな。そりゃ弱ェよ」
「弱いから、変わってしまったのね」
「……。わかんだろ」
椿なら、と続けられた言葉に疑問符を浮かべる。
私が何をわかると言うの、と問うとソウルくんはじっと私を見据えた。
赤い瞳は、あの時から何も変わらない。
ゆらゆら燃える、真っ赤な火。
「愛してたんだよ。マカを」
思わず目を細める。
「椿に対する愛情とは質の違う愛だな。お前もブラック☆スターを愛してたろ」
なるほど、と小さく頷いてアイスティーに口をつける。
こく、と喉が鳴った。
「私たちには大切な人が多すぎたわ」
「だから脆く崩れやすかったんだろうな」
俺はもう大切なものを作らないことにしたよ。
そう言ったソウルくんの目は、切なげに真っ赤に燃えていた。
紅蓮の炎