SOUL EATER book4

□目撃者は語る
1ページ/1ページ





本棚の奥。
埃を被った、恐らく一ページも読まれていない本達。埃をはらえば新品同様のそれを、一冊手に取って気づく。
本棚の奥の奥。
そこに真新しい、埃を被った本棚には似つかわしくない、真新しい、薬袋。

嫌な予感を全身で感じつつくるりと部屋の扉へ振り返る。
ブラック☆スターは昼御飯を買いに行ってる。暫くは帰ってこないだろう。

がさり、薬袋を掴んで中身を確認する。
薬なんて見たところで何かわかる訳でもなく。
薬の名前を睨みながら電気の明かりにかざしてみる。…何もわからず。


「ブラック☆スターが病気?まさか。世界滅びるんじゃないの?」


どうせお酒の飲みすぎで腹でも壊したんでしょ。
前の時はそんなに飲まなかったけど、生まれ変わってお酒への考えでも変わったのかしら。

今のブラック☆スターと前のブラック☆スターは根本的に違う。
記憶がないんだから当たり前なんでしょうけど。前の絶対的な自信と強さは失ってしまったような気がしていた。

それでもブラック☆スターに変わりはないのだから、見て見ぬフリなどできる訳がない。
意味がわからない気持ち悪い、付きまとわれて仕方ないから付き合ってやると言われても。私はそれだけで嬉しいのだ。一度殺してしまったから。


ガチャン。玄関のドアが開く音と「ただいま」という声。
パッと顔をあげ、子供用の椅子を蹴り飛ばしながらぱたぱた玄関に向かう。
おかえりなさい、なんて言いながらブラック☆スターの前へ立つと、
ブラック☆スターは私を見るなり真っ青な顔をした。


「お前それどっから…」

「え?本棚のとこにあったよ」


ブラック☆スターの慌てた顔を見て目を見開き驚きながら返事を返す。
ブラック☆スターは私が持つ薬袋を奪い取ろうと手を素早くこちらへ突き出して、はっと何かに気付いたかのようにその手を止める。
彼が奪い取ろうとした時に私は心底怯えた顔をしたのだろう。
手はゆっくりと固く握りこまれ、か細い声で彼は「悪い」と言った。


どきどきと心臓が高鳴る。
あんな必死な顔を見たのはこの体では初めてで、その目に星こそ宿っていなかったものの、私の恐怖心を煽るのに十分なものだった。


「…あのなマカ」


ブラック☆スターが弁当の入ったレジ袋を脇に置き、膝を折って私の頭に軽く手を置く。
子供扱いされてるようでいつもは「それやめてよ」とむくれてみせたが、今はさっきの顔を思い出してとても言えるような心境ではなかった。


「男の部屋の本棚、勝手に漁るのはやめとけ。今回はお前に害がないからよかったけど」


害?と聞き返しそうになって、思い当たるものがありふんと鼻を鳴らす。


「あんた前世でその害があるもんとやら、思いっきし私の前で広げて読んでたじゃない」

「…ぶん殴ってやれ」

「ぶん殴ったわよ」


覚えてないのね、と眉間にシワを寄せながら腕を組むと、ブラック☆スターは「お前も可哀想なやつだな」と憐れむような表情を見せた。
ちょっと、私のことアタマの病気だって思ってんでしょ。前世を信じられないのも無理ないけど。


「……。…マカ、大丈夫か」

「何が?アタマなら大丈夫よ」

「いや、さっき怖がらせちまったみたいで」

「あんた前世じゃ私のこと平気で殴ったのよ?凄まれたくらいで今更」


ちょっと怖かったけど。
その言葉は飲み込んで、さっきの顔を思い出して、心配そうな表情を浮かべるブラック☆スターの手を私はゆっくりと握った。




目撃者は語る



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ