SOUL EATER book4

□空腹には抗えない
1ページ/1ページ




腹減った、と無意識に口走る。
深夜3時。嫌な時間に起きてしまったと頭をぼりぼり掻きながら起き上がる。

床の上に敷布団を敷いて寝る俺が、パイプベッドを買ったのは最近のこと。
よく家に泊まりに来るマカが、というか今も隣りで寝ているマカが「ないと眠れない」と言うので、甘やかすつもりはなかったが押し切られて一番安いやつを買ってしまった。
置く場所なんかあるだろうかと心配する俺を他所にテキパキと俺の部屋を片付けてベッドを組み立て、「これでいつでも寝に来れるね」なんて笑って言い放ったのは衝撃的だった。
ガキのくせに一体どこにそんな力があるのか、太いネジは固く締められ、俺がベッドの上で飛び跳ねても壊れはしない程完璧。
意味わからん甘ったれのガキだと思っていたが少し見直してしまった。

ギシ、と鳴るベッドから降り、軋む床をそっと歩く。
すやすやと寝息をたてるマカを起こさないよう、そっと足を忍ばせる。

俺の子じゃねぇのになんでこんなにも神経研ぎ澄ませなきゃいけないのか。
一回マカの親御さんと話し合う必要があるな。

お宅のお子さんにストーカーされて困ってるんですぅ、なんて言ってみるか。
…俺が警察に突き出されるな。


「ブラック☆スター」


ビクリと肩が跳ねる。思わず床を思い切り踏みしめてしまい、ギシィと大きく音が鳴った。ボロアパートめ。


「どこいくの」


起こしてしまった申し訳なさから、マカの方へ振り向く速度も遅い。
暗闇できらりと光る緑の目と視線が重なって、俺は「あぁ」と声を漏らしながら眉間に力がこもった。


「わるい、起こしたか」

「どこにいくの」


俺の謝罪を一切聞かず、マカが再度質問する。
その態度に少しむっとして、また更に眉間にシワが寄る。

眠いのだろうか、いつもと違うマカに少し戸惑いながら「いや、」と曖昧に返事を返す。
マカは眠いと無愛想になるんだな。
知りたくもないストーカー小娘の新情報が手に入って、俺は嬉しいというよりはイラつきを覚えていた。


「どこにいくの?」


よた、とマカがベッドから降りこちらへ歩きだす。
余程眠いのかその足取りはおぼつかないもので、それでも前へ前へと歩く。


「おいマカ」


あぶねぇぞと声をかけてもマカは聞こえぬふり。
さすがに違和感を感じて大丈夫か、などと声をかけながらマカに歩み寄る。


「ねぇ、また置いてけぼり?今度はどこに行くつもり?」


マカの前世という言葉が、本当なら。
いや、全部全てを信じるというわけではないが、
もしもマカの言う前世とやらが、病による記憶障害かなんかで、本人は実際にあったと錯覚していたとして。


俺はその前世で、よっぽどマカに悲しい思いをさせ死んでいったのだろう。

マカを置いてけぼりにして、凄く悲しませてしまったのだろう。


…俺には全く関係のないことだが。
不思議な感覚だなぁと目を細めて、今にも泣きそうな顔で俺の服を引っ張るマカを、
俺は屈んでしっかりと抱きしめてやった。


「やっぱどこにも行かねぇ事にしたよ」


ラーメン作ろうと思ってただけなんだけどなぁ。

そう溢すとマカは「なんだ」と笑って見せた。
ああ、それだよ、お前ぐらいの歳の子はその表情が一番似合ってんだよ。


「ごめんね、代わりに作ってあげるから」

「いいって。ちっせぇから台所に立てねぇだろお前」

「…踏み台があれば」

「ねぇよそんなもん。男一人暮らしの部屋に」


寝るか、と声をかけるとマカは俺をじっと見たのち静かに頷いた。
マカの頭をなでてやりながらベッドに誘導して、のろのろとベッドに上がり横になったマカに毛布をかけてやった。

マカはすぐに目を閉じ、じっと動かずその顔を見つめていると、しばらくしてからすやすやと寝息が聞こえ始めた。


悪いなマカ。
心の中で謝ってから。今度は起こさないよう細心の注意を払いつつ居間へ向かう。
そろりそろりと音もなく歩き、背中でマカの寝息を聞き。

唇にしー、と指をあてながら戸棚の下にしまってあるカップラーメンを取り出す。
純情なガキの為ならば平気で嘘をつくような大人になったことを、少し情けなく感じながら。




空腹には抗えない




「未知なる関係性」でサイドテーブルがどうたらって書いたのにこのお話でベッドは初めてって書いちゃったので「未知なる関係性」を修正させていただきました。
ブラスタんちの家具は大体和物です。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ