SOUL EATER book2

□お望みは
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長い黒髪を見つけてそれが椿だと連想するのに一秒もかからない。
ここらで黒髪はキッドと椿ぐらいしかいないからだ。
迷う間もなく「椿」と声をかけるとぴくりとその肩が跳ねる。
振り向かない、ちょっと待ってみてもやっぱり振り返らない。
なぁ椿、とレディに失礼かと思いながらもそっとその肩に手を置く。

振り返った顔に水。液体。透明な。一筋の。
涙。
その文字が頭に浮かんだと同時にもう一方の肩に手を置く。今度は強く。

どうしたんだと。気が急いてそれは言葉にならず。


「あぁ、ちがうの、ふふ、変なとこ見られちゃったね、大丈夫、そんなんじゃないから」


取り繕うかのように椿は思い浮かんだ言葉を吐き出す。
なにが言いたいのかわからない、きっと泣いてる所を見られて気が動転してるんだろう。

どうした、どうした、どうしたんだ、何があった、何が。

落ち着け、と俺の中の子鬼が叫んだ気がした。
いやそれはきっと気のせいで。あいつはそんなイイヤツじゃねえ。
俺が我を失ったらアイツはきっと笑うんだ。信じないならそれでもいいが、と子鬼は続けた。
レディをエスコートするのは得意だろう?やってみせろよ。子鬼が馬鹿にしたような口調で言う。


「椿」


なんて綺麗な名前なんだろう。綺麗な黒髪で、涙まで綺麗。
ああ子鬼もそんな椿に惚れたんだな、そうだろう、じゃねえとお前がそんな事言うなんておかしいぜ。
子鬼が黙る。椿も何も言わない。俺がなにか喋るべきだ。何を言えばいい?


「何かあったのか」


変に落ち着きはらった俺がそう言葉を紡ぐと椿は潤んだ瞳からまた一筋涙を流した。


「ヘマしちゃった」


たったそれだけ椿がそう言って、顔を手で覆う。
椿の指には包帯が巻かれていた。
どうしたんだそれ、と聞くと椿は「折っただけ」と答える。


「それよりもね」


震えた声で椿が続ける。


「ブラック☆スターに、大怪我させちゃった」


ふふふ、なんて笑う声に元気はない。
きっとあいつのことだ、椿には気にするなと言っているんだろう。


「トドメさせずに帰ってきちゃった。早く魂集めてマカちゃんのあとを追わせたいのに」


私がデスサイズになったらきっとブラック☆スター喜ぶのに。
椿はそう言ってしゃがみこんだ。


子鬼が呟く。俺の耳にしっかりその言葉が届く。


「ブラック☆スターは強いから大丈夫だ」

「大丈夫じゃないわ、大怪我してるもの」

「椿も強い」

「強くないわ、失敗しちゃったもの」

「俺は2人みたいに強くはないが」


握りこんだ拳がギリギリと音を立てる。苛立ってる、腹が立ってる。


「マカと一緒だったら誰にも負ける気はしねェ」


1人分の靴の音が校内に響く。
子鬼の笑い声が俺の中に響く。

お前の意見には賛成だよ子鬼。いい事言うこともあんだなお前って。
なぁ、今からソイツを殺してきてやろうぜ。


 

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