SOUL EATER book2

□連れ去られ未遂
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「一緒にどっか消えちまおう」なんて誘いに軽い気持ちで乗ったのがいけなかった。

ざっざっ、と裏路地を縫うように早歩き。
迷子にさせない為か私の右腕は彼の左手によって握りこまれている。

煉瓦に足を引っ掛ける。ごみ箱に腰を打つ。
スピードは緩まることもなくむしろどんどん速くなっていく。
ブラック☆スターの一歩は私にとって二歩で、早歩きで歩く歩く歩く。


「ちょっと、どこに行くのよ」


息切れをしながら質問する。歩みは止まらず。


「お前は俺をナメすぎなんだよ」


そう呟いて彼の足は小石を蹴る。ごみ箱を蹴る、中身が散乱する。
すれ違った黒猫の行く末が気になって振り返る。散らばったゴミを漁る猫の後ろ姿が見えた。


「ねぇブラック☆スター!」


もう殆ど走り出しながら声をかける。


「私たち一緒にデスシティで育ったじゃない?」


それなのに私たちって遊んだりしてたっけ?ブラック☆スターは何も答えない。

死武専に入りたての頃、一緒に昼食食べてくれてありがとう。本当はそんなに仲良くなかったのにね。
私が一人でいるのに気を遣ってくれたんでしょう?椿ちゃんと友達になれるように仕向けてくれたんでしょう?

舌を噛まないようにそこまで言うと、ブラック☆スターは足を止めた。


「ありがとう」

「…どういたしまして」


やっと聞こえた声に胸をなでおろし、目の前にそびえたつ建物を見上げる。
それは見間違う筈もない私とソウルのアパートで。あれ、さっきどっかに消えてしまおうって言った癖に。


「お前、俺の事ナメてんだろ」


そんなことない、と言っても険しい顔で「いやそうだ」と決めつけたように言い放つ。


「いいか、お前バカだから言ってやるけどな」


ちょっと待って、あんたよりはバカじゃないわよ。


「一緒に消えようなんて誘いに安易に乗るな。ほんとに連れ去っちまうぞ」

「失礼ね!そんくらいの覚悟作ってから安易に乗ったのよ!」


真剣に無表情で拉致宣言をするブラック☆スターが面白くて、笑いながら返してやる。
真顔で一拍置いてから、すぐに彼は表情を歪ませて大きな笑い声をあげた。

私たち2人ともバカみたい!笑って呼吸困難になりつつ言うとブラック☆スターはさらに笑い声をあげる。
汚い笑い方。ああ面白い、何が面白いのかわからないけれど、あんたのその笑い声が一番落ち着くわ。

買物帰りのお隣さんが訝しげな表情で私たちを見る。視線が辛くてさすがに私は笑うのをやめた。


「今日の所は帰ろうかな」


真っ黒の月を見上げる。あの戦いの後からこんなに楽しいのは初めてだわ。
月は私たちを見下ろしているようで、少しだけ心のどこかが暖かくなった。


「私を連れ去ってどうするつもりだったの?」

「お前を誰にも取られないようにでもするさ」

「それもしかして告白?」


くすくす笑いながら聞くと、ブラック☆スターは無言でにやりと笑ってから私に背を向けた。
ひらひらと振った手は「また明日」という意味なんだろう。


「あんたなんかに惚れるかバーカ」


そりゃあ「一緒に消えよう」なんて言われた時はちょっと顔に熱がこもりましたけど?
いやいや惚れてはない、そんなまさか、ブラック☆スターは親しいただの友達。


…そうだよね?
不安になって月に聞いてみるも、真っ黒な月は何もしゃべらない。


 

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