SOUL EATER book3

□罪滅ぼし
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立場が異なれば、考え方も異なって当然でしょ?
色好い返事の続き。




くいっと一気に飲み干した缶ジュースを、ブラック☆スターはゴミ箱へ投げた。
ガン、と大きな音をたて缶はゴミ箱の縁に当たり、ぼとりと芝生に落ちる。
聞こえてきた舌打ちに溜息をつき、落ちた缶を拾おうとベンチから立ち上がる。

さすがにかなりの年下に拾わせるのはまずいと感じたのか、ブラック☆スターは焦ったように立ちあがり缶を拾い上げる。
やっとゴミ箱に入れられた缶は役目を終えたように静かに底のほうで横たわる。


「そういえばブラック☆スター、歳はいくつ?」

「29」

「私11歳」

「えぇっと、…18歳差もあんのか。俺も歳とったなー」


私の家までの距離はまだ結構ある。足が疲れたと嘘をついて自販機を指させば、ブラック☆スターは何も言わずココアを買ってくれた。
「お前まだ飲み終わんねぇの」という言葉から察するに、彼はさっさと私を送り届けたいらしい。

ガリ、と缶の縁を噛みブラック☆スターの横顔に目をやる。

言うべきか言わざるべきか。私は少し頭を悩ませ、やがてブラック☆スターから目を離す。
普通の人が前世なんて信じるもんか。もう30なら尚更だ。


「なぁ、なんでお前は俺のあだ名知ってんの?」

「あんたのほんとの名前はなんて言うの?」

「…言わなきゃ駄目か?お前すっげぇ怪しいんだけど。星だよ。苗字だけしか教えてやんねー」


流れで私の名前を教えるとブラック☆スターは興味なさげにふーんと息を漏らした。

私が前の記憶を持ちながら生まれ、それから10年でわかったことは、
死武専という学校は存在しないこと。
武器も職人も存在しないこと。
そもそも前世の時とは世界線が違うこと。
たったそれだけだった。



ブラック☆スターの苗字が星だと聞いて、私は少し笑ってしまった。
鬼神戦でもこいつはリストバンドに星を描いてたっけ。


「何笑ってんだマカ」

「へっ?」


ブラック☆スターに名前を呼ばれ、思わず私は目を見開いた。
懐かしいなぁ。それ前世でも言われた気がするよ。よく覚えてないけどね。


「私ねぇ、ブラック☆スター」


私が前世で死ぬとき、キッド君が、前世の強い意思が来世で受け継がれると、言っていた。
私の強い意思の根源はどうやら記憶だったらしい。
忘れたい嫌なこと程ハッキリと覚えている。

例えばそれはある日のことで、
ブラック☆スターが朝中々起きなくて手を焼いたこととか、
朝ごはんを失敗してしまって「マズイ」と言われたことだとか、
新死神様に呼ばれて死武専に行くのにブラック☆スターが靴紐結ぶのが遅くてイライラしたこととか、
新死神様の命令で一緒に悪人狩りに行くのに嫌な顔をされたことだとか、
「ちょっと恋人らしく手でもつないで行こうよ」と言ったのに「今から任務なのに馬鹿か」と一蹴されたこととか、
それをソウルにまで笑われたり、
椿ちゃんの優しいフォローが地味に胸に突き刺さったり、
スタスタ歩いてく大きな背中を睨みつけたり、
その日の任務で私のせいでブラック☆スターが死んでしまったこととか。


そのあと私が死ぬまでの18年間は苦痛しかなかった。
そんなことばかりが脳みそを支配して、私は今世で楽しい思いなどしたことがなかった。

記憶を引き継がせたキッド君や前世の私を呪った。
なぜ生まれ変わってもこんな思いをしなければならないのかと。


「やっとブラック☆スターに会えてよかったと思っているよ」


そう言うと、ブラック☆スターは思った通りに「きもちわり」と眉根を寄せた。
笑顔は18年で忘れてしまったけど、その顔だけはよく覚えてるわ。


罪滅ぼし


私はこれからやっと、罪滅ぼしが出来るのだと、
飲み干したココアの缶を握り締め、静かに喜んでいた。


 

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