大人になってから book
□疎まれた存在
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彼が石を投げられたのを何度か見たことある。
彼は決まって寂しそうな顔をして、その後大口を叩いて周りを笑わせるのだ。
あの子強い子だね、とパパに言うと、パパも「わかるか」と同意してくれた。
皆の目が節穴なんだ。不思議なことに、彼の凄さを誰もわかっていなかった。
「マカっていうの。一緒に遊ぼう」
そう言った私を、彼は後になって強い人だと思った、と言ってくれた。
「私、強いかしら」
「俺ほどではないけどな」
「遠まわしの褒め言葉だね」
真っ黒な月を見上げる。
月が真っ黒になってから、変な噂が広まるようになった。
真っ黒な夜は月の中の化物が姿を現すそうだ。
そんな訳ない、と必死に言ったって誰も聞く耳持たない。
あの子は私たちを守ってくれているというのに。
「あんなに輝いてるのにな」
青い髪の彼は月を見上げて言った。
「あんた程じゃないのかしら」
「今は、あいつの方が輝いてるよ」
すぐ追い越してやるけどな。そう大口を叩く彼は幼いあの日と何も変わっていない。
疎まれた存在