大人になってから book

□見えなければ輝けばいいのだと星が言った
1ページ/1ページ


月見をしようと誘ってきたのはマカの方だった。
ならば団子でも用意するかと言うとマカは日系の癖に変な顔をする。
食べ物ねーのかよ。愚痴を漏らすと真剣な顔をしてマカが俺の頭をひっぱたいた。

マカは週に何度か月を見る時間を設けてる。
マカからしたらこれは大真面目な行事らしい、俺はよく不真面目に取り組むなと怒られている。
行事と言っても窓から月を見上げてぼうっとするだけで、文字通りの月見。
面白くも面白くなくもないただの月見。

マカがカラリと開けた窓から、夜風が吹いて俺の前髪を撫でる。
風に目を細める。マカはとりつかれたように月を見る。

いつだったかに見えていたあのフザけたツラを下げた月は黒血で隠れ、見えるのは空と同じ色のただの真っ黒な月。
見たって何も楽しくない。そもそも友達が閉じこまってんだから楽しい筈がない。

でも俺はマカのその行動を止める気にはならなくて、
むしろ進んで参加するようにマカの隣りに座って窓の外を見上げた。


「まだちょっと太陽が出てる」

「もうしばらくしたら真っ暗になるな」

「月が真っ黒になってから、夜はあかりも全然ない真っ暗になっちゃったね」

「でも」


クロナが見守ってくれてんだろ、と続けそうになった口をつぐむ。
クロナから俺たちのことは見えているんだろうかとふと疑問に思ったせいだ。
その疑問はどんどん膨らんでいく。

なぁマカ、クロナが俺たちの事見えてないんだとしたら。
なぁ、それって悲しくて寂しいことなんじゃないか。


「マカ。まだ月見には早いだろ」

「…そうかもね」

「ちょっと買い出し行ってくる。お前は椿達呼んでてくれよ」

「……ブラック☆スター」


上着を羽織る俺をマカが制止する。
俺の行く手に手を広げて立ち、ここから先は行かせないと言いたげだ。
マカの目は困ったように潤んでいる。


「わかるでしょ?クロナに会うときは、私1人で集中していたいの。その方が」

「その方がクロナの魂を感知できるから、か?まぁ待てよ」


喋りながらにっと笑うとマカは腕を下ろす。

全くお前はほんと真面目ちゃんだな変わってねぇよ、と前置きして真っ黒な月を指差した。


「あんな真っ黒い中にクロナは閉じこまってんだぞ?俺らがどこにいるかわかると思うか?」

「…わからないかもしれないけど…、私はわかるよ……あ、でも、……うーん」


マカが低くうなる。
俺の言わんとしていることがわかるようだ。


「マカは見えてもクロナは見えねーんだから、クロナさみしーだろーなー」

「うー」

「…そこでだ、マカ」


俺様にしては頭のいい提案だぞ、と笑う。


「花火しよう」

「夏はもう過ぎたよバカ」

「バカじゃねーよ今回はな。明るくて騒がしくすればクロナだって俺らってことわかんだろ」


我ながら頭のいい考えだと鼻を鳴らす。
難しい顔をしていたマカも次第に表情がゆるんでいく。
なるほどね、と呟きながら頷いて、マカは電話の前に小走りしていった。


「キッドくんも来るかなー?」

「椿呼ぶの忘れるなよ。きっとうまいもん持ってきてくれるぞ」

「みんなあんたみたいに食い意地はってないわよ」


わかってねーな椿の手料理は天下一品なんだぞ。ソウルもキッドも飛んできてくれるって。

太陽が沈みきって真っ暗になる前に、と俺は急いで玄関を飛び出した。
打ち上げ花火も買ったらクロナから見えるだろうか。一番でっかくて目立つやつを買おう。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ