大人になってから book

□共鳴連鎖の前にキスする事由
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そういえば今日一緒の任務だな、とパンを口に押し込めながら言うと、マカは何も言わず何度か頷いた。
それに違和感を感じ首をひねる。


「キンチョーしてんの?」

「そんなわけ」


ふん、と鼻を鳴らしながら紡いだ言葉の語尾は薄く消え入る。
モグモグと右頬で咀嚼していたパンを飲み込む。
冷えて汗をかいたコップの中身を飲み干して、「そうかい」と返しながらガッチャガッチャ音をたて皿をシンクに片付ける。

ソウルと椿が迎えに来るまでまだ時間はたっぷりある。
ゆっくり準備すればいいか、とテレビの電源をつける。
ニュース番組なんかには当然興味はなくて、リモコンをぽちぽち操作しながら面白い番組はないかと探す。

朝にバラエティ番組なんかやってる筈もなく、諦めてテーブルの上にリモコンを置いた。
ごとり、と重たい音のあと、マカの息を吸い込む音が微かに聞こえた。


「久しぶりのソウルとの任務なの」

「ほう」

「緊張するね」

「そうか?」


身を縮こまらせるマカを見てらしくねぇなと思ったり、いやたまにはそんな所もかわいいなと朝からクラッと来たり。

ソウルの職人はマカだけだ。
キッドはソウルのこと扱えねぇし、ソウルが職人として信頼を置いてるのもマカだけ。
一体何を不安に思う事があるのだろうと不思議でならなかった。

がたんと音をたてながら椅子から立ち上がる。
空になったマカのコップを取ってキッチンへ。
緊張してるなら口の中も渇いているだろうと精一杯の気遣いだった。


冷たい水を入れて冷えたコップをマカの前に置くと、とても小さな声で礼を言われた。
く、と水を口に含んだマカの喉が鳴る。
余程緊張しているのかつぅっと口の端から水が垂れた。


「俺様の足だけは引っ張るなよ」

「わかってるわよ」


口元を拭いながらマカが言った。


「そんな調子で共鳴連鎖できんのか?」

「うっさいな」


むっとマカの頬が膨らむのがわかった。

緊張している彼女にこんな言葉しかかけられない己を呪う。
ソウルならなんて言っただろう、キッドなら?
きっとこいつの不安をキレイにぬぐい去る言葉でもかけてやれたに違いない。

それなのに俺は憎まれ口を叩く事しかできなくて、恋人だというのに無情に突き放すことしかできないのかと我ながら呆れた。


「迷惑はかけないわよ」


刺々しい言い方に刺されたように胸の内が痛くなる。
ハーフツインテールに結われたマカの後頭部を見て、どんより浮かぶ周りの空気は落ち込んでますよと必要以上にアピールしてる気がして、
はぁっと深く溜め息をつく。


「マカ」


くるりと、こちらへ振り返った彼女と視線がぶつかる。
いつもより近い距離に今更鼓動が早まって、それをかき消すように荒っぽくマカの唇に自分の唇を押し付けた。

つ、と舌先でマカの唇を沿わせ、
ぱかりと薄く開かれた唇の間に舌を滑り込ませて舌の腹で歯の先をなぞる。
呼吸をするのを忘れて止めていた息を浅く吐いて、吸い込む。
熱を孕んだマカの荒い息が唇と唇の間から漏れ、まるで俺もそれに合わせたように息を吐く、吸い込む。

お互い荒い息のまま唇を離し、諦めの悪い銀の糸が長く伸びてぷつんと切れた。


「こうすると共鳴しやすくなるだろ」


冗談でもなんでもなく。本当にそんな気がしたから言ってみただけで。
しかし飛んでくるであろう分厚い本のカドを受け止める覚悟はしっかりとしていた。


「……なるほどね」


…そんな覚悟は必要なかったらしい。
返ってきた返事は肯定を意味とする言葉で、俺はなんだかそれに拍子抜けした。

しばしの沈黙のあとに緑の瞳がちらりと俺を見上げる。
その真っ直ぐさに思わず身じろいで、後ずさりしそうになったところをマカに引っ張られる。


「確かに、今なら共鳴しやすそうだね」


そう言ったマカの唇が俺のに触れる。
かぁっと顔へ上ってくる熱に自分でも驚きフリーズ。
数秒後にパッと離された顔には、してやったりな表情でも照れたような表情でもなく全くの無表情。


「……緊張、ちょっと和らいだかも」

「………そうは、みえねーけど」

「ならもっとしていい?」


ピンポーン、と甲高い音が部屋に響き渡る。
マカも俺もビクリと肩が跳ねて、そろりと視線を玄関へ向ける。


「…いや、いいっす」


絞り出すような声でマカに返すと、マカも顔を赤く染めながらそうねと呟いた。


 

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