その他 book

□出来る事と出来ない事
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吐く息は白く。視界の大半も白が占める。砂漠から急に雪が広がる街に飛ばされたせいで、ガタガタと必要以上に体が震える。


「寒いね」


巻き添えで10年前に来てしまったというのに、ナナリーはただそれだけ言ってあとは何も喋らない。
体を縮こまらせる俺に対し、彼女は背をぴんと張り前を真っ直ぐに見つめるという毅然さ。適わねーな。

ため息か周りの空気をあたためる為か、俺は長く息を吐いた。
それは白く丸く広がり、薄くなって消える。何度か繰り返してる内に、痺れを切らしたのかジューダスが「行くぞ」と言って城へと歩き出した。


そうだ、ウッドロウさんの安否を確かめねば。

丸まった背中は緊張のせいでナナリーと同じようにピンと張る。
先を歩くカイル達に遅れて、ナナリーが、次に俺が歩き出した。

ぎしり、ぎしり。雪を踏みしめる音と、歯がかちかちと噛み合う音。
その中で、ぼそりとナナリーが呟いたのが聞こえた。


「10年前か」


冷える指先をストーブにかざした時のように、ナナリーのその言葉が俺の内側へじんわりじんわり染み込んでいく。
じわりじわり、とその言葉に含まれる意味を理解して、俺は唇を固く結んだ。

彼女はわずか9歳で弟を失った。
10年経ち、大人になり、知恵も付き、そしてそのまま10年前に戻ってきた。

何がしたいのかは明白だった。


「…ナナリー……」

「なんだい?」


呟きを聞かれていたとは微塵も思わないらしく、さっきの暗い表情は消え失せいつもの元気な表情に戻っていた。


「…なんでもねぇよ」


その表情に俺が何を言える訳もなく。出かかった言葉は胸の奥へ引っ込めた。

ぎしり、ぎしり、雪を踏み鳴らしながらナナリーは前を向き直って、名を呼んだだけの俺へ悪態をついた。

彼女はきっとあの未来を変えたりはしない。
ルーはあの未来を望んでいたのだと信じて疑わないのだから。


「なぁ、ナナリー」

「…なんだい」


今度は不満そうな声。半歩後ろから見えるナナリーの息は白い。


「ホープタウンにも雪は降るのか?」

「降る訳ないだろ?年中砂漠だよ」


「そうか」と小声でもらした俺の息も白く。
しんしんと雪を降らせ続ける空を見て、次にナナリーの露出度の高い服を見た。

かけてやれる上着を俺は持っていなくて、ただ顔を伏せた。


 

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