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□雨合羽なんぞを被って
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アンナが幸せなら何だって良いと思った。
浮気とか不倫とかモラルとか、「馬鹿だから」を理由にして考えないようにしたのはいつからだったか。
「葉に申し訳なく思わんのか」と蓮に言われて胸が痛くならなかった訳じゃない。
――俺は馬鹿だから。
それが免罪符でないのは最初から分かっていたけれど。
じめじめ、じめじめ。
外の天気雨の所為で室内は蒸し暑い。
洗濯物もとっくに取り込んだ。何で俺が、とも思ったけど今炎には俺しか居ない。
アンナが帰ってきたらシめられるだろうから、と洗濯物を畳む。皺は念入りに伸ばして。
雨よりは晴れが好きだ、肌がじりじり焼かれるあの感じも好き。
笑顔が太陽みたいだ、とかつての好きな女が言ってくれた。
余計な事を考えずに過ごしたあの頃が楽しかった。
「つまり忘れられないって事でしょ」
一時間ほど前に、アンナが冷たくそう言い放った。
馬鹿にするように鼻で笑ってて、俺はそれにムカついて
「お前だって葉の嫁の癖に、」
そう返した後に、しまったと思った。
だってあんまりにもアンナらしくない表情をしてたから。
謝ろうと口を開く前に「買い物に言ってくるから」とアンナは出て行ってしまった。
財布すら持っていかずに、逃げるように。
(そういえば、アンナ、傘、)
追うべきではない。良い機会じゃないか、このまま喧嘩別れした方がお互いの為だ。
最善の答えは出ているというのに。俺はすぐに洗濯物を全て畳み終わらせて、傘をひっつかんだ。
早く行ってやらねば、彼女は俺のような馬鹿でないから風邪を引いてしまうだろう。
雨合羽なんぞを被って
そうする事がアンナの幸せに繋がるのならば。