破面騎士

□幕が開く
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『…可笑しいな、どうも』

「どうかしたんすか?」



 ドオン、と倒れた虚を見下していたクラウドの呟きに振り返った恋次は小さく首を傾げ、目の前の虚を再び斬り伏せた。
 そんな彼の額には汗が流れており、今の所数時間程真夜中にも関わらず虚と戦い続けている。
 一方クラウドは息は乱れていないものの眉を寄せて空を見上げており、その様子を見た日番谷達は虚の間を通りクラウドの側に集まった。



「何だこの量は…!」

「クラウド、どうなってる!」

『…分からない。ただ、これだけ虚が現れるという事は――…』



 そこまで言った所で言葉を切ったクラウドは目を見開き、ばっと右側に目を移した。
 その部分には黒腔が4つ程出現しており、再び大量の虚が現世に流れ込む。
 クラウドはその様子を目の当たりにすると目を閉じ、探査回路(ペスキス)を発動した。



『!…悪い、この場所を頼んでも良いか』

「…何かあったのか?」

『ああ。…一護や朽木は?』

「今他の場所で戦ってるが…」



 そうか、と頷いたクラウドは目を細めて左側をじっと見る。
 その様子を見ていた日番谷は目の前の虚と背後の虚を一気に凍らせると振り返り、クラウドの腕を掴んだ。
 驚いた様に目を見開いたクラウドは振り返り、日番谷の真っ直ぐな瞳と目が合う。



「何があった?はっきり説明しろ。…俺達は今虚の位置を把握出来ていない」

『…楓の家の方向に破面の霊圧が1つ…、いや、2つある』

「!…チッ、俺達の事は気にするな。…早く行け」

『信じても良いんだな?』

「…当たり前だ」



 小さく微笑んだクラウドは日番谷の手を振り解くと体を逆方向に向け、すっと視線を巡らせた。
 視界に映る範囲で数十匹、遠目には一護達が戦っているであろう虚達も見える。
 虚の位置、数を把握したクラウドは右足を軽く動かすと口を開いた。



『全員3秒後に地面に降りろ!!』

「!」

『3、2…1』



 霊圧と共に一護達の元へも届いた声に反応した死神達は3秒後丁度に地面に降り立ち、そして空を見上げた。
 それと同時に通り抜けた赤い虚閃に目を見開くと共にすぐさま消えた虚。
 それを見た一護達は上空に再び戻り、黒腔に向かって刀を構える。



『後は任せた』

「…あぁ」



 しゅん、と姿を消したクラウドを見送った日番谷は再び現れた虚を睨むと刀を振り上げた。
 ごちゃごちゃと動き回っている虚の間を通って楓の家の付近に辿りついたクラウドは微かに目を見開き、一気に速度を上げる。
 そんなクラウドの視線の先では目を見開いた楓の周りに倒れている母親と父親の背中、そしてその目の前に立っている破面の背中が映っていた。



「…ふぅん、やっぱりあの人の妹だったらあたし等の事も見えてるんだ?」

「当たり前だろ、あの人の妹だ。…霊圧も高いに決まってる」

「……っ」



 ガタガタと無意識の内に震える自分の体を押さえつけた楓は目の前に立つ黒髪と金髪を持つ2人の虚から目を離せずにいた。
 一方2人の虚はにやりと笑みを見せると黒髪の虚が手を伸ばし始める。



『…其処までにしておいてくれ』

「!!…ぁ」

「っ!…随分早かったわね…。でも、この人間をいたぶれば現れると思ってたわ」

『………久々だな、お前達』



 ばっと腕を振り払った2人は一気に距離を開け、クラウドは唖然と己を見上げる楓の前で足を止めた。
 楓は目の前に立つクラウドの背中を見上げるとふるりと震え、ガタガタと震える足でゆっくりと立ち上がる。



「クラウド、さん…?」

『…あまり無理はするな』

「え、な、なんでその服装で…?」

『………』



 黙ったクラウドを見上げた楓は恐怖の眼差しで2人の虚を見上げるとごくりと生唾を飲み込んだ。
 そんな楓とクラウドを見ていた黒髪は目を細めるとはっと笑い、にやにやとした表情のまま口を開く。



「ねえ人間」

「っ!」

「アンタさぁ、…目の前に姉がいる事分かってる?」

「……え」

『…』



 向けられた殺気に口を思わず閉じた黒髪。
 が、言葉を1つも聞き漏らさなかった楓は目を見開いてクラウドを見上げた。
 そして涙を流すとクラウドの背中にしがみ付く様に凭れ掛かり、呟く様に口を開く。



「やっぱり…、やっぱり、」

『……』

「やっぱり私の姉さんは、…死んだのね…?」

『!…お前…』

「でも良かったぁ…」



 絞り出すような声に目を見開いたクラウドはチラリと楓に目を向けた。
 楓は笑っている、それを確認するとクラウドは徐に眉を寄せるが、その言葉の意味が分かると同時に目を閉じる。



「姉さんは死神だったんだ…」

『……っ』

「化物じゃなくて、良かっ――」



 どす、と肘で腹部を殴ったクラウドは背後に現れた浦原を見ると楓を投げ渡した。
 よっと、と受け取った浦原は楓を持ち上げるとくるりと背中を向け、チラリと目をクラウドに向ける。



「…記憶を消せば良いんスね?」

『……頼みます』

「お安い御用っす」



 すぐに姿を消した浦原を目を向けず見送ったクラウドは静かに2人の虚を見上げた。
 クラウドの視線を受けた2人の虚は徐に刀を向け、黒髪が再び口を開く。



「…ねぇ、あたし達の事覚えてる?」

『……あぁ。…ロリとメノリだな』

「よく、よくそんなに軽く言えますね」



 眉を寄せてそう言ったメノリを見たクラウド。
 その視線に固まったメノリを庇う様に前に出たロリはキッとクラウドを睨んだ。



「…どうしてあたし達がこんな事をするか、…それは分かる?」

『………分からない』

「全部アンタの所為だ!!」

『!』

「…全部、全部…!」



 ロリの悲痛な叫び声に目を見開いたクラウドはぽろ、と流れた2人の涙に思わず動きを止めた。
 それを見たロリはぐっと拳を握りしめると刀を振り上げ、一気に走り出す。



「全部…!何もかも…!!」

『……』

「どうして…っ」



 ロリの刀を避けていたクラウドはさっとしゃがみ込み、背後から放たれた突きを交わすと2人を蹴り飛ばした。
 数メートル程で止まった2人は再び刀を持ち、殺気を一気にクラウドに集中させる。



「藍染様は帰ってこなかった…!」

『!』

「貴方を信じていたのに…!何故、何故クラウド様が…」




 (藍染様を斬ったのですか…!)
 (藍染様を返して…!私達の居場所を返して!!)


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