破面騎士

□もう一人
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『…あーあ』



 まるで呆れたように、無表情でそう発した。
 そんなクラウドが見下ろす先にはばらばらになった虚達が転がっている。
 虚達はやがて塵の様に消え去り風がクラウドの髪を揺らした。
 クラウドの目は金色に変色し、普段の雰囲気が一変し獣の様な獰猛さがチラついている。



『…なんか、物足りない』



 頬の血を手で拭い、目に映す。
 そしてやはりまるで別人のような動作で軽く残骸を蹴り飛ばす。
 力を随分抜いた様に思うが、それでもかなりの距離を吹き飛んだ残骸を見送り足を見下ろす。



『…!』



 ピクリと反応したクラウドはここで初めて表情を崩した。
 そして不気味に微笑むと背後を振り返る。
 その視線の先には眉を寄せて自分を睨んでいるスタークが立っていた。
 スタークは普段と随分変わったクラウドに怪訝な目を向ける。



「…クラウド」

『………スターク』



 スタークと目があった瞬間、目を閉じたクラウド。
 次にゆっくりと開けられると目の色は元の色に戻っていた。
 その様子に息を吐いたスタークは転がっている虚を見て口を開く。
 クラウドも徐に周りの虚を見渡した。



「…また、殺しちまったのか」

『……そうらしい。』

「お前、最近多すぎるぞ。外に出て何してる」

『…頭痛がする時は必ず何かを壊す。だから外に出るようにしているだけだ』



 クラウドは最近頻繁に人格が変貌する。
 その時に変貌したもう一つの人格が無差別に周りの物を斬り付けるのだ。
 そしてそれを毎回止めに入るスタークを覚えているらしく、彼が来た場合にのみ笑みを見せる。
 そして彼女はいつも彼に向かって同じ言葉をかけるのだ。



『…っ、…離れろスターク』

「おい、しっかりしろ。お前はいつものクラウドか?」

『…残念。』



 スタークが肩に手を置いた途端、パシ、と振り払われる。
 その行動に眉を寄せたスタークは距離をとり、徐に舌を打つ。
 今目の前に立っているクラウドはにやりと笑っていた。



『しつこいね、あんたも。…帰りなよ』

「やだね。俺はお前を止めろって藍染サマに言われてんだよ」

『…ふーん』

「っ!」



 目を細めたクラウドは一瞬でスタークの目の前に迫り、蹴り飛ばした。
 ゴロゴロと転がっていくスタークを見て、クラウドは口元を吊り上げる。
 そして立ち上がったスタークはギロ、とクラウドを睨む。



「ぐ…っ」

『…やっぱり丈夫だね、スターク』

「……忘れてたぜ。あんたに藍染サマは禁句だったな」

『禁句じゃないよ。気をつけろって言ってるだけ』



 ぶわ、と霊圧がスタークに襲いかかる。
 それは風の様に押し寄せスタークを背後に押し出すように圧力をかけていた。
 スタークは片手を地面に着くと、勢いに耐える。
 痛みに少し目を細めたスタークはクラウドを恨めしげに見た。



「イテテ…、さっきので軽く肋骨何本か逝ったな」

『…さすが第二十刃。蹴り程度では死なないわけか。』

「まあ…な!」

『…』



 スタークは走り出し、刀をクラウドに振りかぶる。
 繰り出された斬撃をクラウドは左手で受け止め、右足を振り上げた。
 が、それを見切ったスタークは軽く避け、刀を横から振りかぶる。
 クラウドはその斬撃を視虚閃で弾き、左腕を前に突き出した。



『…虚閃』

「虚閃」



 クラウドが繰り出した虚閃に対抗するようにスタークも虚閃を繰り出し、青と赤の巨大な虚閃が衝突し、混ざり合う。
 地面の砂で視界がぼやけると、目を細め威嚇するように霊圧を四方八方に飛ばすクラウド。
 そんな中、砂埃の中を音も無く走っているスタークはクラウドの背後に忍び寄った。



「…虚閃」

『…!』



 霊圧にばっと振り向いたクラウドは大きく目を見開いた。
 その様子を見下したスタークは目を細め、手の平をクラウドに向ける。



「…危なかったぜ。お前の髪の色で一瞬見失いかけた」



 ガウン、と打ち出された虚閃は凄い速度でクラウドに向かっていく。
 咄嗟に仰け反ったクラウドは目の前に広がる虚閃に口を広げた。
 虚閃が徐々にクラウドの体内に入り込んでいく。
 その様子を見たスタークは目を大きく見開き「げっ」と声を洩らした。
 全て飲み込んだクラウドは口内に虚閃を蓄積させ、口を少し開く。



『…』

「…ヤベ…っ」



 クラウドが吐き出した虚閃に危険を感じたスタークはすぐさま走り出し、虚閃を回避する。
 虚閃を発動して立ちすくんだクラウドを振り返り、スタークは思わず動きを止めた。
 クラウドは何かに耐える様に俯き、拳を固く握っている。



「…クラウド?」

『……うん、何かすっきりしたわ』

「!…は?」

『…藍染には気をつけな。あいつがあたしを作ってるんだ』



 そう。この言葉を彼女は最後に必ず自分に向けて言うのだ。
 その理由を訊いてみれば、単に自分を気に入ったからだと言っていたことも覚えている。
 するとクラウドの目の色が赤に変化し、クラウドが目を見開いた。




 (元に戻ったか)
 (すまない。…悪かった)
 (いや、いい)

 (それよりも気になるのは)
 (藍染があの人格を作っているという言葉)


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