破面騎士

□一人ぼっちの二人
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 時折吹く冷たい風は地面の砂を巻き上げ、一人立つクラウドの白髪を揺らした。
 彼女は唯一目立つであろう赤い両目を閉じ、彼女を中心に地面の砂が脈打つ様に揺れる。
 霊圧が白い砂漠を這う様に広がり始めた。
 霊圧を感じ取り逃げ出す虚や、また己に接触するまで気づかず霊圧の重みに目を見開く虚。
 さまざまな虚を霊圧で感じ取っていたクラウドは突然ぽつりと現れた巨大な霊圧に目を見開いた。



『(…おかしいな。何故気付かなかった?)』



 気付かなかったにしては霊圧が大きすぎる。
 思わず眉を寄せ、その場所に霊圧を集中させた。
 集中すれば、巨大すぎる霊圧に隠れていたのか小さな霊圧がぽつぽつと周りに存在している。
 見に行ってみようと考えたクラウドはその場に向かって走りだした。
 何故か現在進行形でぽつぽつと消え始める巨大な霊圧の周りの小さな霊圧達に疑問を持ちながら。


























 クラウドの視界に人影が二つ。
 布切れを羽織る大きな影と子供の様に小さな影。
 時折吹く風や撒き上がる砂で隠れているが、微かに話し声が聞こえる。
 子どもと男か?と目を細めたクラウドは二つの人影が己に背を向けている事が理解出来た。
 少し離れて足を止めたクラウドはその場所から歩いて二人に近づく。
 ある程度近づくと、クラウドは目の前に広がる情景に微かに目を見開いた。



「ア゙ァア゙アァア゙…」

『………』



 砂埃が晴れた先には、大量の虚の死骸が転がっていた。
 否、転がっているのは生きている虚だが立ち上がる事が出来ないらしい。
 転がっている虚の中の一匹が苦しげな声を上げて小さな塵になって行く。
 その様子を見たクラウドが微かに息を飲み、その微かな音に反応した二人が同時にふり返った。



「…何だ、あんた」

「興味本位で近づかない方が良いと思うけど」



 諦め切った様な、疲れ切った様な声だった。
 二人の顔をじっと見れば二人とも眉を寄せてクラウドを見ている。
 そうこうしている間にも消えていく虚が横目に入る。
 そちらに一瞬意識を向けたクラウドは口を開いた。



『お前達の意思で殺しているのか?』

「違う。勝手に死んだ。こいつらが」

「皆死んじゃうんだ。多分あんたも同じ」



 二人の言葉に微かに目を見開いた。
 そしてふと。
 あの時と同じだ、と頭の中で言葉が横切る。
 そして先日失った彼女の事も脳裏に蘇る。



『…何だ。お前達もか』

「……どう言う意味だ?」

『無意識じゃないが、…私もお前達と同じ境遇にあった』

「なんで?」



 真っ直ぐと目を向け、そう問いかけた子供にクラウドは目を向ける。
 少女は黙ったクラウドにもう一度「なんで?」と問うた。
 クラウドは黙って刀に手を掛けると微かに眉を寄せて口を開いた。



『…殺したくなったんだ。無性に』

「…仲間をか」

『仲間じゃない。そうなる前に全て斬ってきた』

「………」



 ―――仲間になる前に、殺してしまう。
 そう呟く様に言えば、男は目を見開いた。
 が、少女の方は分かんないよ、と膝を抱えて顔を隠す。
 その様子を横目で見ていた男は静かにクラウドに目を向け口を開いた。



「…あんた、強そうだな」

『……なぁ。私と共に来ないか』

「!…あ?」

『共に来れば、仲間が出来る。こいつ等の様に柔な奴はいない』



 そう簡素に返し、歩きはじめるクラウド。
 その様子を見て顔を見合わせた二人。
 少女が徐に立ち上がり、座ったままの男をふり返った。



「…行こう、スターク」

「…ああ。リリネット」



 確認するように呼び合うと、静かに歩きはじめた。
 それを気配を感じ取り理解したクラウドはふり返り足を止めた。
 そして無表情のまま小さく呟いたのだ。



『……ようこそ。』



 
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