破面騎士

□零れ堕ちる
1ページ/2ページ




 今日は静かだな。
 ふと、そう思った。
 普段はネリエルが笑顔で自分に抱き着いて来るものだが。
 日常がほんの少し壊れた様に思った。
 だがあまり真剣には考えず椅子に深く腰掛ける。



「おいクラウド!」

『…何か用か』

「藍染が呼んでるぜ」

『……分かった』



 突然開かれた扉を見れば目付きを鋭くしたヤミーが立っていた。
 霊圧で少し感付いていたがな、と目を細める。
 そして静かに立ち上がると通りすがりにヤミーに礼を言って白い道を静かに歩き始めた。
 カツカツと独り分の足音だけが響くこの廊下に何か足りないものを覚える様な心境で。


















 大きな扉を開き薄暗い室内へ入る。
 視線を上げれば高い位置に藍染が座り笑みを浮かべていた。
 「やあ」と声が掛かれば頭を深く下げ、前に進み膝を着く。
 何か用ですかと訊けば静かに市丸が前に出た。



「おはようさん、クラウドちゃん」

『…何の用でしょうか』

「いやあ最近なぁ?七人じゃ戦力的にちょっと厳しいんやないかなーって思て。」



 黙ったクラウドににこにこと笑みを向ける市丸。
 やがて目を細めて少し息を吐いたクラウドを見た市丸は更に笑みを深めた。
 「…私が探しに行きます」その言葉を聞くとうんうん、と満足げに頭を縦に振る。
 話が早くて助かるわ、それだけ伝えると市丸は再び陰になっている場所に引き返した。
 話は終わりかと目を細めると同時に藍染が口を開きクラウドが頭を下げる。



「すまないね、頼めるかい?」

『はい。了解致し…ました』

「…ん?」

「霊圧が洩れている様だね。…ネリエルかな」



 密室であるこの部屋にも紛れ込むほどの量の霊圧が流れている。
 その様子に何かあったなと目を細める3人。
 …東か。霊圧を探り方角を特定したクラウド。
 じっと壁の方角を見ているクラウドを見た藍染は「気になるかい?」と笑みを見せる。
 その言葉に咄嗟に「いえ、」と返すが笑った藍染が「行って良い」と口を開く。
 「ありがとうございます」と頭を下げたクラウドは速足に扉を開いて外に出るとネリエルの元へ響転を使い急ぐ。



「何か探し物かァ?」

『!……ノイトラ』

「…珍しいじゃねェか。お前が焦るなんてよォ」

『……其処を退け』



 そう威圧を籠めて言うがノイトラは笑みを浮かべたまま引く気配がない。
 無理に押し通っても良いがノイトラの手が斬魄刀に伸びている為無暗に通る訳にもいかない。
 そうこうしているとノイトラの背後から「どうしたんだい、」と声が響いた。
 ノイトラの背後に目を向ければ怪訝な顔をした桃色の髪を持つ破面が姿を見せる。



『…見ない顔だな』

「ん?…ああ、成程。僕はザエルアポロ・グランツ。君とは仲良くしたいんだが…ねぇ?」

『!…その霊圧』



 急いでいて勘付く事が出来なかったのかと歯を食いしばった。
 目の前の二人からはネリエルの霊圧が微かに感じられた。
 二人の挑発的な目を見たクラウドはただ一言「ネリエルは何処だ」と言い放つ。
 その言葉にニヤリと口元を吊り上げたノイトラを見、クラウドは拳を静かに握りしめた。



『…何をした?死ぬ覚悟は出来ているのか』

「…っ!?」

「チッ…!」



 クラウドの霊圧によって膝を着いたザエルアポロに、ぐっと押さえつけられ足に力を籠めるノイトラ。
 耐えるか、とノイトラを静かに睨んだクラウドは手の平に霊圧を集中させる。
 集まり出した霊圧と赤い光に目を見開いたザエルアポロはぽたりと冷や汗を流し咄嗟に口を開いた。



「虚夜宮の外だ…っ」

『…そうか』

「!!ぐ…っ」

「っ!」



 ザエルアポロの言葉を聞いた後に問答無用で虚閃を放った。
 かなりの威力に二人が歩いてきた廊下も大破し、二人は床に突っ伏している。
 そんな二人を見下したクラウドは静かに虚夜宮の元へ走り出した。























 数秒後、クラウドは虚夜宮に辿り着き外をゆっくりと見下した。
 すると己が立っている位置より下の方から微かなうめき声が耳に届く。
 ばっと見下せば小さな少女を抱えた見覚えのある従属官が二人蹲っていた。
 ネリエルが見当たらないなと目を細めたクラウドは飛び降り、従属官の側に着地する。



「!クラウド…様…?」

「なんで此処にいらっしゃるでヤンスか…」



 蹲っていた二人は向けられた冷たい目に息を飲み手元の少女を抱え上げ前に出す。
 すぅ、と寝息を立てている少女に目を移したクラウドは微かに目を見開いた。
 緑色の髪に鼻筋を横切る仮面紋。
 全てネリエルと同じもので、やがて理解した様にクラウドが眉を寄せる。



『……ネリエル、か』

「…はい。…申し訳ございません…!」

「護れなかったでヤンス…ッ」



 ネリエルを持ち上げたクラウドに土下座をする様に頭を下げた従属官の二人。
 そちらに目を向けたクラウドは小さなネリエルの頭を撫でる。
 『小さくなってしまったのか』驚いた様な声色ではあるものの、その目は冷たく氷の様な印象を受けるものだった。



「ノイトラの攻撃を受けた途端、霊圧が漏れて小さく…」

『…ネリエルはもう十刃としての使命は果たせないだろう』

「はい。寧ろ生きていると知れば再びノイトラに…!」

『……お前達にネリエルは任せる。今すぐここを去れ。』



 有無を言わせない言葉だった。
 その言葉に深く頷いた二人。
 それを見たクラウドは初めて二人に向けて笑みを向ける。
 任せたと言う様な表情にはい、と再び二人は大きく頷いた。
 最後にとネリエルの頭を撫でるクラウド。



「…ん…」

『…すまない、ネリエル』



 身じろぎしたネリエルから手を退き護れなくて悪かったと目を閉じる。
 そして立ち上がったクラウドはノイトラ達が居るであろう方向を睨む様に見上げた。
 振り返ったクラウドは、三人を見下し口を開く。



『…また会おう、ペッシェ、ドンドチャッカ、…ネリエル』

「はいでヤンス!」

「また、いつか…」



 ペッシェの言葉にああ、と頷く。
 それを最後にクラウドは一瞬の内にその場を離れ己の宮へと向かった。
 クラウドはいつも通りの無表情を装い宮に入り込む。



 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ