破面騎士

□blanco
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 何処までも続く白い世界。
 此処で目が覚め、自我が目覚め。
 それから全く変わらない月のみが光の世界。
 空は灰色でまるでモノクロの世界。
 その世界に紛れるような白い髪を靡かせた彼女は全く表情の無い顔を空に向けていた。
 その姿は騎士を連想させ佇んでいる足場には何匹もの虚が積み重なっている。



『…………』

「ゥ、小娘ガ…ッ」

『煩い、黙れ』



 返事なら後で何度でもしてやれるから。
 そんな言葉を吐いた彼女は裏腹に虚を斬り殺した。
 光が無くなった目を見開いた虚はぐったりと頭を地面に預ける。
 再び月を見上げた騎士は突然目を見開き、ゆっくりと真下を見下した。
 静かに眉を寄せ、息を吐く。
 騎士は右腕を動かし鎧の様に固い左腕を撫でた。



「――――!」

『……』



 霊圧に目を向けた騎士は眉を寄せると手をそちらに向けた。
 月から目を逸らさない騎士は手に霊圧を集中させる。
 左側に居る虚の霊圧が驚きで微かに揺れた。
 それと同時にその左腕から赤い虚閃が吐き出され虚を直撃する。
 左腕を元の位置に戻し静かに目を閉じた。



「随分と野蛮ね」

『!』



 左横から、再び先程の虚閃を超える巨大な霊圧が出現した。
 …否、正確には膨れ上がった。
 咄嗟に横に振り向けば先程放った虚閃の倍程もある桃色の虚閃が目の前まで迫っている。
 クラウドは虚の山から飛び降り虚閃を避け改めて先程の虚閃を放った虚に目を向けた。



「……」

『…』



 そこには白い世界に同調する様な純白の羊が立っている。
 その虚の角からは僅かに霊圧が渦巻いていた。
 じっと角を眺めた騎士は納得した様に息を吐き、内心舌を巻いた。



『…初めて見る虚閃だ。私の虚閃を上乗せしたな?』

「………」

『…名前はあるか』

「―…ネリエル」



 頭に直接響く様な声に思わず目を細めた。
 ネリエル、復唱すれば彼女からも同様の質問が己に返る。
 一瞬黙った騎士だったが、やがて静かに口を開いた。



『…クラウドだ』

「クラウド…」

『ああ。…利口な奴は嫌いじゃない』

「…随分上からね、貴方」



 その言葉に微かに目を見開いたクラウドはやがて掠れる声ですまないと返した。
 頭を押さえ、左右に振る様子に首を傾げたネリエルはじっとクラウドを見る。
 赤い瞳が一瞬月の色に反射して金色に見えた。
 クラウドは徐に振り返り、一点の恐怖も無いネリエルの目を見る。



『…私と一緒に来ないか、ネリエル』

「……えぇ」

『…ありがとう』



 この言葉は慣れていない。
 そうイントネーションから感じ取ったネリエルは内心で少し笑った。
 不気味で、とても美しい虚。




 白い世界で。


 (私と同じ白い人)
 (己の感性など忘れたが、…恐らぐそれ゙は美しい存在なのだろう)
 ((なんてこの世界に見合った存在か))


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