破面騎士

□新しき日常へ
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「…イヅル、」

「!」



 ビク、と反応した吉良はゆっくりと顔を上げ、目の前に立っている市丸を見上げた。
 そしてそれと同時に大きく目を見開き、市丸を凝視する。



「…居なくなって、ごめんなぁ。それと、…乱菊と戦わせてごめん」

「………なんで、そんな顔をしているんですか…?」



 吉良の視線は今まで見た事が無い程に真剣で、そして後悔している様な表情に釘付けで、市丸はその言葉を聞くと困った様に眉を下げた。



「1人で隊見て、乱菊も斬ってもぉて…辛かったやろ?」

「!」

「ホンマにごめん。…許してくれとは言わへん」

「…本当ですよ…」



 呟くようにそう言った吉良を見下した市丸は口を閉ざし、小さな声に耳を傾ける様に黙り込む。



「…信じていたんです。あの時はただ只管…!…なのに、裏切られて…挙句には貴方に放っていかれた…!」



 どうせ裏切られるぐらいなら、捨てられる様に放っていかれるぐらいなら、…連れて行って欲しかった。
 そう言った吉良を見た市丸は静かに顔を伏せ、2人の間に沈黙が降り立った。



「…でも、でもよかったです」

「?」

「隊長は…、隊長は藍染を斬ったんですよね。…藍染を殺す為に、向こう側に居たんですよね」

「!」

「…見ていたんです。斬った瞬間も、藍染に隊長が斬られた瞬間も」



 僕は、と言葉を切った吉良をじっと見ていた市丸は次の言葉に目を大きく見開き、吉良の頭に手を乗せる。



「隊長が無事で、こうして帰って来てくれて、…もう満足です」

「…ありがとう」

「え、えぇ!?」



 わしゃわしゃと己の頭を撫でる手に驚いた様に目を開いた吉良は目の前の市丸に目を移し、思わず笑みを零した。



「イヅルが部下で、ホンマに良かったわ」

「…は、初めて僕にそんな事…!」

「当たり前やん、今まで言った事無かったし…」

「せめて隊長の時に1度聞いておきたかったです…!」

「あはは、にしてもイヅルの頭は撫でにくいなぁ」



 そう言って手を離した市丸はもう1度微笑み、吉良の背後に目を移す。



「…じゃ、僕今から乱菊の所に行ってくるわ」

「……はい」

「そんな最後みたいな顔しなや。クラウドちゃんによるとな、総隊長サンに僕と東仙隊長の処分についても話してくれるらしいから。あの子交渉滅茶苦茶上手いから多分大丈夫やと思うで」

「…はい!」



 じゃ、と手を振った市丸は手を袖に隠し、己の事を眉を寄せて見ている乱菊の前で足を止めた。



「……乱菊」

「…1つだけ言わせて」

「…うん」

「アンタって…本当に馬鹿…。なんであんな事で居なくなったのよ…。なんであんな事で皆を敵に回して…!そんな事するぐらいなら、藍染について行かないで尸魂界に居てくれた方がよかった!!」

「…うん。ごめんな、乱菊。僕が斬られた時に乱菊が泣いとったから、目ぇ覚めた」

「遅いわよ…!あたしは、アンタが私の魂魄の一部を藍染から取り返そうとして敵に回ったのを知ってた。自分の為にあんたが死神を裏切って、それでもあたしはアンタと戦わなくちゃいけなくてどれだけあたしが辛かったと思ってるのよ!!」

「…」

「あたしはアンタが…!アンタが側に居てくれればそれでよかった!取り返しに行かなくても良かった!!アンタが死にかけた時どれだけ怖かったか…っ、あたしの所為でアンタを殺したと思った時、どれだけ苦しかったか!!」



 そう言って涙を流す乱菊を見下した市丸は徐に乱菊を引き寄せ、ポンポンと背中を叩く。



「ごめん、ごめんな。乱菊。結局取り返されへんかった上に、辛い思いさせて。でもな、…どうしても許せんかったんや…。乱菊の魂魄が奪われて、いつか乱菊が死ぬんやと思たら…奪ったもん何が何でも奪い返さなあかんと思て」

「魂魄なんて、もう治ってるわよ…!総隊長と一緒に行ったあの人に修復してもらって、もう何も問題は無いって…」

「!…ホンマ?それホンマ、乱菊」

「当たり前でしょ…!」


「…よかった…。よかった…、クラウドちゃんに感謝しやなあかんなぁ。ははは」

「っ、なに笑ってんのよ…!」



 ドン、と胸板を拳で殴った乱菊を見下した市丸は安心したような笑みを浮かべ、嬉しいんや、しゃーない、と言い放つと体を離した。



「…よかった、もう乱菊は大丈夫やねんな。もう僕今死んでもええわ」

「……死んだら許さない」

「そうやな、…うん。分かった」

「居なくなっても許さない」

「うん」

「一緒にお酒飲みに行かないと許さない」

「うん……え?」

「干し柿一緒に食べて、あたしの仕事全部やって…」

「え、ちょ、待って乱菊」



 許してほしいんでしょ!!と声を上げた乱菊にビクゥ!と反応した市丸は目を鋭くしている乱菊を見ると徐にはい…と返事を返し、乱菊は涙を拭うと顔を伏せて拳を強く握る。



「全部やらないと死んでも許してやらない…」

「…うん、分かった。全部やる。…だから許してや?」

「分かってるわよ。…そうしたら、あの頃みたいに吉良も連れて酒でも飲んで…。…あんな事、無かったみたいに…」

「…そうやね。じゃあ、頑張るわ」

「……」




 (…え、っと。つまりこれで…?)
 (ん?)
 (市丸隊長は僕達に許されたので…)
 (え?あれ、許されたん、僕)
 (た、)
 (え?)
 (たいちょぉぉおおお!!)
 (えええ!?イヅル!?イヅルどうしたんやいきなり!?)
 (柿の木は育ってます、実もちゃんとなってますちゃんと美味しいです!!)
 (え、う、うん)
 (干し柿も作りますから、食べに来てくださいぃぃ)

 (うん…行かせてもらうわ…。……テンション高すぎる気ぃすんねんけど大丈夫かイヅル…って何微笑ましい顔で見てんねんなルキアちゃん。どうにか止めてくれへん?)
 (…え)
 (ああごめん。そうや君僕の事怖がってたんやっけ)
 (い、いえその…、…あ、謝ってくださってありがとうございます)


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