破面騎士
□新しき日常へ
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『一護、傷を治そう』
「ん?…ああ、つってもあんまり傷はねーけどな。クラウド達が来てくれたおかげだ」
『…ああ、それは良かった』
そう言ったクラウドは少し屈み、一護に手を翳すと背後に目を向け口を開いた。
『すまないが、全員死神の方々の様子を見に行ってくれないか。もしも怪我人が居れば連れて来てほしい』
「チッ、分かったよ」
そう返事を返したグリムジョーを筆頭に破面達は走り出し、その場から姿を消した。
それを見送ったクラウドは目の前に視線を戻し、一護の顔を見上げると立ち上がる。
『どうだ、傷の具合は』
「…おう、大丈夫だ。サンキュ」
『ああ』
「……おーい!一護とクラウド!」
「!…平子…」
振り返り、立ち上がった一護はスト、と着地した平子を見やりあいつ等は、と問いかけた。
「ああ、あいつ等なら帰したで。浦原の意見で記憶は消してない。お前と話したそうにしとったから、一段落したら説明したれよ」
「おう。元からそのつもりだったしな、浦原さんに礼言っとかねーと」
「ではどうぞ今言ってくださいっス」
驚いた様に振り返った一護はどーも、と言い放った浦原を見るとありがとな、と声を掛けた。
その言葉を聞いた浦原は笑顔で頷き、真剣な表情になるとクラウドサン、と呼びかけ口を開く。
「…藍染サンが封印されている封印架は瀞霊廷に運ばれました。時期に四十六室によって処分が決定されるでしょう。まあ、その前に総隊長殿には1つ仕事が残っているんで、それが決定してからだと思いますがね」
『?』
「貴方方破面の尸魂界移住の話っスよ。対談と決定は総隊長殿が全て持つと言ってますんで、頭ごなしに否定はされないと思います」
『…そうか。ありがとう』
「はい」
そう言葉を交わした時、それを眺めていた一護は立ち上がりクラウドの頭に手を置いて真剣な表情で見下した。
『?どうした、一護』
「…なぁ、クラウド。俺さ、親父に宝玉の能力は周囲の心を取り込んで具現化する事だって聞いたんだ」
『…ああ』
「だとしたら、藍染は自分から望んで力を失ったんじゃねぇかな。」
微かに目を見開いたクラウドは一護を改めて見上げると刀に添えていた片手の手のひらに力を籠める。
「俺はやっとアイツと互角に戦えるぐらいの力を手に入れて、初めてアイツの刀に触れた」
『……、』
「…アイツの刀には、孤独しかなかった。お前なら分かるだろ?」
思い出す様に目を閉じてそう言った一護は表情を悲しげに歪ませると空を見上げた。
「アイツがもしも生まれた時からずっと人より飛び抜けた力を持ってたなら…、きっと自分と同等の力を持つ存在を探してたんじゃねぇかな」
『………あぁ』
「…多分、その答えがお前だった。でもお前は藍染を上の存在として見ていたからアイツは態と仲間を傷付けて、お前を怒らせた」
『!』
「それで同等の存在になろうと思ったんじゃねぇか…、…俺はそう思ってる」
目を伏せたクラウドは己が斬る事の出来なかった藍染の表情を思いだし、表情を歪めた。
そして刀を強く握ると重々しく口を開く。
『…だが、私は…』
「ああ、お前は最後の最後まで本気で藍染を斬れなかった。だからアイツは思ったんだ、自分と同じ目線に立つ存在はやっぱり居ないって」
『!』
「…それはお前と戦った後に思ったんじゃなくて、多分ずっと昔にその答えに行きついていた筈だ」
『………』
「きっとアイツはそう思った瞬間から、心の底で普通に成りたいって願ってたんじゃねぇかな。だから、アイツは…」
「黒崎さん」
ん?と顔を上げた一護は浦原がちょいちょいと指で指しているクラウドを見下し、あ゙、と硬直する。
『……そうか…、私の所為か…』
「え゙!?あ、いや…」
『本当に私は最後の最後まで…!』
「ちょ!?ちょっと待てクラウド!言い方が悪かった!俺が言いたかったのは…!」
『…?』
「アイツが根っからの悪い奴じゃないかもって事で…!俺は、」
「貴方を慰めてるのよ、一護は」
ゆっくりと顔を上げたクラウドは立っているネリエルを見ると一護を見上げ、その視線に気が付いた一護は困った様に笑顔を向けた。
『…ああ、ありがとう。一護』
「お、おう」
『…で、ネリエル。死神達は大丈夫だったのか?』
「うん。虚って言っても雑魚ばっかりだったみたいで、皆ピンピンしてたよ」
『そうか。…ならば私も死神達の元へ行こうか。一護、本当にありがとう』
「あ、いや…。俺も色々悪かった」
『もう忘れた。私にお前は何を言ったんだったか?』
そう言って小さく微笑んだクラウドは姿を消し、それを見送ったネリエルも一護に微笑み掛けると姿を消した。
「…クラウド」
『!ウルキオラか。どんな状況なんだ?』
「ネリエルに聞いているだろうが、怪我人は居ない。今はあの死神の科学者が転界結柱と言うものを発動させ、町を元に戻そうとしている」
『そうか、ありがとう』
「クラウド」
声に振り返ったクラウドは少し上の上空に立っているハリベルを見るとハリベルの後ろに立っている卯ノ花の目の前に行き、じっと目を合わせた。
「ありがとうございました」
「……」
礼を言った卯の花から無言で離れたハリベルはウルキオラの隣に移動し、静かに対面している2人を見上げる。
『どうかなされましたか?』
「ええ。恐らく今瀞霊廷では重傷を負った朽木隊長達が居る筈です。その手当てを貴方に手伝って頂けないかと」
『…はい、喜んで』
「ありがとうございます。では、穿界門を開きます。今は技術開発局が断界の壁を固定しているので安全に通る事が出来る筈なので、どうぞ」
『ありがとうございます』
小さく頭を下げたクラウドは卯の花と共に穿界門に入り込み、瀞霊廷に到着するとすぐに剣八と白哉の元へ急いだ。
「救護班急げー!」
そんな声が飛び交う中に上空から飛び降りて着地した2人は立ち上がると、周りの隊士達が思わず動きを止める中剣八と白哉の前で足を止め、クラウドは剣八の顔を覗き込む。
「…………なんだ」
『いや、元気そうでよかった。そこの隊長殿も』
「……」
静かにクラウドを見る白哉を見たクラウドは静かに剣八に目を戻すと両手を傷口に翳した。
『……終わったぞ、どうだ。痛みは』
「ねぇ」
『そうか。よかった』
「…あぁ」
「此方も終わりました」
「……感謝する」
「はい」
立ち上がった2人は各々腕を回し、傷の具合を確かめる。
その様子を見ていたクラウドは背後の霊圧に振り返り、すぐ目の前に現れた破面と市丸、東仙を見上げ、その向こう側に立っている総隊長含む死神達を見ると総隊長と対面する様に前に出た。
「…先程の戦争での話の件を早速じゃが話し合いたい。」
『はい、ありがとうございます』
頭を下げたクラウドは歩き出そうとする総隊長を見ると背後を振り返り、口を開く。
『ギン、東仙』
「「?」」
『死神の方々に謝ってこい』
「…えー…」
「……」
『…親しい者だけでも良い、行って来い。他はこの場で動くな』
そうとだけ言うと全員の返事を待たずクラウドは総隊長について行く様に姿を消し、総隊長の隣に立つ。
それを見た市丸と東仙は困った様な表情をすると各々歩き出した。