破面騎士
□黒崎一護
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クラウドと別れ、現世へ向かっている最中。
現世へと続く暗い夜道のような場所でウルキオラは足を止める事無く一人黙考していた。
「…(黒崎一護…、クラウドと関係のある人間…)」
ウルキオラは徐に胸付近を強く抑え、クラウドを脳裏に思い出す。
「…(これが、心だというのか)」
ウルキオラは走りながら己の胸部を見つめ、もう目の前に迫っている入り口に近づく。
そして先にその場から落下したヤミーに続き穴を抜けた。
視界が開けると周りには一面の青空が広がっていた。
二人は地面に落下し、公園のど真ん中に降り立つ。
「何だ!?何か落ちて来たぞ!」
「おい大丈夫か!?」
「な、なんなの…?」
現世の人々は二人が落ちてきた衝撃に驚き、二人の居る穴にわらわらと集まり始めた。
「…」
「…面つけてた時に何度も現世に来たが…相変わらずつまんねー所だなァオイ…。霊子が薄すぎて息しずれーしよ。」
「文句を垂れるな。俺は一人でいいと言ったはずだ。来たがったのはお前だぞ。ヤミー」
「へぇへぇ、悪かったな」
ヤミーは大してそう思っていないような口ぶりでウルキオラに謝りながら二人が落ちて来た衝撃で出来たであろうクレーターを登り始めた。
それについて行く様に歩き出したウルキオラはひょいとクレーターを抜けたが、ヤミーは周りに集まる人々にピタリと足を止める。
「…あ?」
「なんだ!?」
「隕石でも落ちて来たんじゃねーの?」
「何が落ちたんだよ!?」
「近づいて大丈夫なのか?」
「…」
ヤミーは人々の前に立ち、己の姿を認識できず騒いでいる男女を見下した。
「やめた方がいいって!」
「なんか変な感じするし…、止めようよ」
「大丈夫だって!」
「なんだこいつら…霊力もないのに寄ってくんじゃねェよカスが!…スゥゥウウウ…」
「う…うわあああ…」
ヤミーはクラウドの言う通り、とりあえずと言った風に周りの人々の魂を一瞬にして吸い尽くした。
それと同時に周りの人々は倒れ、ウルキオラは視界が良くなった周りを見渡し始める。
「………。」
「ぶっはー!まじぃ…喰うんじゃなかったぜ」
「当たり前だ。そんな薄い魂…美味いわけがないだろう。少し考えれば分かる事だ」
「だってこいつらが見せもん見てーにじろじろみっからよォ…。それに、クラウドだってこうすれば標的が自分から来るつってたしな。」
「…」
「で?結局何匹殺しゃあいいんだっけか?」
「…一人だ。それ以外を殺す必要はない」
「こんだけうじゃうじゃいる中から一匹かよ…、めんどくせェな」
「今、現世でまともに戦えるレベルの霊圧を持っているのは多くて三人だと聞いている。それ以外はゴミだ、探すのは容易い。その上に標的は特徴的だ」
「…ぅ…」
「?」
ウルキオラは己の背後から聞こえたうめき声に反応し、振り返る。
すると背後に倒れていた影は視線に気づく事無く緩々と状態を起こした。
「…っ」
「…生き残りが居るな」
「ああ?」
かろうじて起き上ったのは短髪で柔道着を来た少女、有沢竜貴。
ウルキオラとヤミーは標的の友人だという事を知る由も無く、その少女に向かって歩き出す。
「な、なんなんだ…急に意識が遠退いで…っ」
目を開けると、己に近づいてくる男二人が視界に入る。
その事に身を固くした有沢は目を見開き、迫り来る2人から目を離せずにいた。
「でかい…、なんなんだよあいつ等…」
ドン!
「…」
ヤミーは目を見開いて動かない有沢の目の前に立ち、目を細めじろじろと見下す。
「(なんだ…目が、逸らせな…っ)」
「俺の魂吸で魂が抜けてねぇってこたぁ…ちっとは魂魄の力が有るって事だなあ?」
「ぁ…」
「ウルキオラ!この女かぁ!?」
「よく見ろ馬鹿。お前が近づいただけで魂が潰れかけているだろう。…ゴミの方だ。殺せ」
「……っ」
「チッ…じゃあ、魂吸で生き残ったのはたまたまかよ。くだらねえ」
ヤミーは足を振り上げ、有沢に向かって足を一気に振り下ろした。
ドゴッ
「!」
「…っ」
だがその足は止められ、足を退けると腕を抑えている茶渡が立っている。
「…」
少し視線をずらせば、有沢の前には護るように手を広げる織姫が立っており、必死にヤミーを睨み上げていた。
「あぁ?なんだお前等」
「…っ」
茶渡は腕の痛みに耐えるように眉間に皺を寄せながら右手を見下す。
「(…っ、こいつ…ただの蹴りが何て威力だ…)」
「…」
「…井上。話した通り有沢を連れて下がってくれ。なるべく遠くに」
「…うん。無理しないで、茶渡君」
「…」
茶渡は織姫の返答を聞き、注意を目の前に戻す。
その反抗的な視線を見たヤミーは口元を吊り上げ、再び声を張り上げた。
「ウルキオラ!この人間かぁ?」
「ヤミー。お前、いい加減に探査回路を鍛えて自分で判断できるようになれ。一目見ればわかるだろ、…その人間もゴミだ」
「そうかよ。」
「…っ!」
茶渡は右腕から霊力を放ち、霊圧の塊は瞬く間にヤミーに向かっていく。
「…」
「!?」
「え…」
が、ヤミーはひと殴りで茶渡の右腕を折り、地面に叩きつける。
それを見た織姫は目を大きく見開いた。
「っ…!茶渡君!!」
織姫は信じられないと咄嗟に茶渡に近づき、ヤミーが見ている事も気にせず茶渡を揺さぶる。
「茶渡君!茶渡君!!しっかりして茶渡君…っ、返事して、お願い!」
「…ウルキオラ」
「…」
「この女も…ゴミだよなぁ?」
「…ああ。ゴミだ、殺せ」
「クク…分かってる」
「茶渡君!」
「……」
何度も繰り返されている呼びかけに応答しない茶渡。
そんな彼を見た織姫はゴクリと生唾を飲み込み、背後に意識を集中させた。
「…、」
「…クク…」
ヤミーは織姫と茶渡に再び近づくと、人差し指を織姫に向けた。
恐らくその一撃だけで織姫が死ぬと思ったのだろう。
「……三天結盾」
「…あ?」
だが、ヤミーの人差し指は織姫の三天結盾によって作られた壁に拒絶された。
驚いた様に微かに目を見開いたヤミーだったが、すぐに力を入れれば壁に罅が入る。
パリン
壁は粉々に砕け、織姫はばっと立ち上がった。
「…っ」
「…なんだ?こいつ。」
「…」
「双天帰盾!」
織姫のヘアピンから二つの光が飛び出し、茶渡の腕にオレンジ色の膜を張るとその場所の再生に取り掛かる。
「なんだ、治せんのかよ。つーかそいつ生きてんのか、随分しぶとい人間だなぁ?」
「…(回復術か?……いや、違うな。これは回復術じゃない。…時間回帰、または空間回帰か。どちらにせよ回復とは別物…クラウドのものでもない。見たことのない能力だ。)…妙な人間だ…女。」
「…っ、椿!」
「あぁ?んだそれは」
織姫のヘアピンからまた新しい光が飛び出し、織姫の手の平に止まり光を放つ。
それを確認した織姫はキッとヤミーと睨み上げ、口を開いた。
「孤天斬盾!!……拒絶する!」
織姫は最大限に椿の力を蓄えると、一気にヤミーめがけて放出した。
その一撃は織姫にとって渾身の物だったが、ヤミーは特に表情も変えず手をゆっくりと動かす。
「…」
バシュ…
「…なんだ、こりゃ。ハエか?手の平が痒いじゃねーかよ」
「あ…っ!」
椿はヤミーの手に衝突し、瞬く間に粉々に破壊された。
「つ…椿君…っ、そんな!」
「…どうするよウルキオラ…。ちょっと気になってんだろ?…コイツ珍しい術使うから生け捕りにして藍染んトコ持っていくか?」
「!?藍染…!?」
「…いや、必要ない。…消せ、ヤミー」
「はいよ…!」
「!」
ヤミーはウルキオラの返答を聞くと、織姫に向かって左手を一気に振り降ろした。
それを見た織姫は目を固く閉じ、体に力を籠める。
「…っ…」