破面騎士
□現世と流魂街
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『…!』
数秒間走り続けたクラウドは遠目に虚に囲まれている日番谷と老婆を目にした。
「…っ」
老婆を庇う様に前に出た日番谷はキッと氷の様に冷たい目で虚を睨んだ。
それを見た虚は可笑しげに笑い、腕を振り上げる。
『…』
その様子を見ていたクラウドは右足に霊圧を固め、更に速度を上げた。
「ばあちゃんは逃げろ!」
「ホウ…、小僧一人で来ルカ」
拳を固めた日番谷は飛び出し、虚達に向かって走り出した。
それを見たクラウドは日番谷に向かって退け!!と叫び、その声に動きを止めた日番谷を確認したクラウドは右足を振り上げる。
『…虚閃』
「「「!?」」」
ドガアアアン!!
「…っ…!」
吹き荒れる風から目を護る様に手を前に持っていった日番谷は手と手の間から、砂埃の中ゆっくりと立ち上がるクラウドを目に映した。
「…っ、お前、なんで…、その技は、虚閃は虚の技のはずだ…!」
『…私は虚だ』
「っ!俺を喰うためか…!?俺を喰うために近づいて、あんな言葉を…、!」
クラウドは悲しげに顔を歪ませて、振り返った。
その表情に目を見開いた日番谷を目に移した時、クラウドは前方に視線を移し、戦闘態勢に入る。
『逃げろ、冬獅郎』
「っ、けど…!」
「……ソノ姿…、貴様マサカ最上級大虚カ!?」
一匹の虚の言葉を聞いた途端に他の虚も狼狽えだす。
それを見た日番谷は改めてクラウドの存在を認識せざる得なくなった。
「クソ…、コウナレバソコノ餓鬼だけでも!」
日番谷一人に標的を定めた虚達は跳び上がり、日番谷目掛けて走り出した。
それを見たクラウドは驚いて動けない日番谷の前に立ち、左腕を前に出す。
『…』
徐々に左腕に霊圧が蓄積され、周囲は巨大な霊圧に圧力が掛かり始める。
それに気が付いた日番谷は血相を変えて声を張り上げた。
「…!待て、クラウド!」
『?』
「ばあちゃんが…っ」
『…チッ』
クラウドは霊圧を止め、仕方がなく左腕で虚を殴り飛ばした。
「…ぁ…っ」
『チッ…、折れたか』
腕の激痛に眉を寄せたクラウドは左腕を抑え、一歩下がった。
例えクラウドであったとしても、今は義骸の体。
虚閃は出せるが、その形や強度は人間と何ら変わらない。
『…行け、冬獅郎。お前の祖母を連れて』
「でも…っ」
『早く』
「死んじまうぞ!」
ありえない方向に曲がったクラウドの腕を見て叫んだ日番谷は全く聞く耳を持たない。
『…煩い』
「おい!」
『早く行け!!』
「…っ」
『…冬獅郎』
「…?」
『…お前は氷じゃない…お前は、温かい』
そう言ってクラウドは微笑むと、霊圧を膨張させ、その勢いで二人を後方に弾き飛ばした。
「…っ、クラウド!」
『なんだ?』
「俺はお前が…っ」
『…それはまた、今後な』
「…っ」
『……行け』
そう言ってクラウドは足に力を籠め、走り出す。
「…クソッ…」
クラウドと虚の戦闘を見た日番谷は己の無力さを恨み、老婆を連れて走りだす。
それを気配で察知したクラウドは再び虚から距離を取り、己の左腕を見下した。
『…これが人の体か…、無駄に表情が表に出て気持ちが悪い。そして何より―――…重い』