破面騎士
□現世と流魂街
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『…此処が、尸魂界』
慣れた様に地面に着地したクラウドは目の前に広がる風景に目を細めた。
『…腐敗しているな』
目の前には、先程の現世とは程遠い程に時間が遅れている家や人々が行きかっている。
『…たしか、日番谷冬獅郎は…潤林安、だったか』
「おやおや、綺麗なお姉さんだねぇ…」
しわがれた声に背後を振り向けば、優しげに笑う老婆が立っていた。
どうも、と返せば珍しいものを見た様な表情をした老婆は口を開く。
「お前さん、珍しい髪の色だねえ。ここら辺にはそんな髪の子は…、ああ、潤林安の方に一人いたねえ」
『潤林安はどちらにありますか』
「東にまっすぐ行けばすぐに着くよ。あそこは平和なところだから、すぐに馴染めるさ。」
『…ありがとうございます』
そう返したクラウドは東に向かって走り出した。
その速度は響転には劣るが、物凄い速度である。
『…ここか』
東に向かって走り少しした時、一つぽつりと立っている看板に目を移し、足を止めた。
『潤林安』
そうしてクラウドは潤林安に足を踏み入れ、日番谷冬獅郎の特徴を元にに探すため、ポケットを探りながら歩き出す。
『…特徴は……』
クラウドは市丸に渡されていた紙切れを見つけ出し、片手で器用に開くと中に目を通した。
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特徴:小さいでー。
髪の色:クラウドちゃんと同じや。
身長:小さいでー。
顔:いつも真剣な顔しとったなあ…
実力:短気やな。
イケメン度:僕の方がかっこいいで。
好きな食べ物:甘納豆ゆうてたでー。
嫌いな食べ物:干し柿やて。美味しいのになあ…
ほな宜しゅう。
――――――――――――――――――――――――――――
『…なんだこれは。実力と短気は関係ないだろう』
同じ髪の色…、という事は白か。
そう思い立ったクラウドは周りを見渡すものの、それらしきものは一向に見つからない。
「ねえ…あの女の人も…」
「うわー…同じだ。」
「かわいそう…あんな化物と同じ色…」
その言葉を聞き、静かに子供達を見下すクラウド。
それに気が付かずに話し続けていた子供達はある方向を見た途端に会話を止めた。
「あっ…来たぜ、あいつ…」
「ほんとだ」
子供が指さした方向を見たクラウドは目を見開き、視線の先に佇んでいる少年を凝視した。
なんだ、白ではなく銀ではないか。
「…」
クラウドは遠目に日番谷冬獅郎だと確認すると、子供達の間をすり抜けてその場所に向かって歩き出した。
『…』
「こわい…目の色、皆と違う…」
「…」
日番谷が不機嫌に子供達を睨んだ。
それにビクッと反応した子供達は小さい子供を筆頭に走り出す。
「い…行こうぜ」
「ああ…」
それを見た日番谷はまたやってしまった、とでもいう様に顔を伏せた。
「…っ」
『…』
クラウドはそんな日番谷に近づき、おい、と声をかけた。
ビクリと反応した日番谷は怯えた様な目でクラウドを見上げる。
『…一人、なのか?』
「…好きで一人でいるわけじゃ無い。…勝手に逃げていく。」
『そうか。…良い色をしている』
「は?」
『お前の髪の色と目の色の事だ』
「何言って…、お前と同じだろ。髪」
『お前のそれは銀だろう。私は只の白だ』
「んな変わらねーよ。…目の色なんざ…氷のようだと言われた。」
『いいじゃないか。とてもきれいだ』
「お前の目の方が…」
『…血の色だ』
「んなことねえ!綺麗だ!」
『……そうか』
「っ!」
クラウドが目を細めてそう言えば、自分の言動に驚いたのか、一気に赤面した。
『ありがとう』
「……おう」
『…お前、名は?』
「…日番谷、冬獅郎」
『…私はクラウドだ。』
「クラウド…」
『…冬獅郎か。良い名じゃないか』
「…」
そういった途端、冬獅郎はまた赤くなり、顔を背ける。
それに目を少し目を見開いたクラウドは可笑しげにクスリと笑ったが、背後の足音に振り向いた。
「シロちゃーん!」
「その呼び方はやめろっつたろ!桃!」
「えー!でも…あっ…こ…こんにちは…」
走って来たのか、勢いを消しきれなかった少女は日番谷に衝突するような勢いで抱き着いた。
そんな彼女はクラウドの存在に気づき、慌てて頭を下げる。
『…ああ』
「で?なんだよ、桃」
「そ、そうだ!大変なの!おばあちゃんが虚に…っ」
「!?どういうことだ!」
「おばあちゃんと散歩してたらいきなり虚が現れて…っ」
「クソッ!」
日番谷は雛森の現れた方向に走り出し、桃はそこに居ろ!と叫んだ。
「あっ!?シロちゃん!!」
『…待て、娘』
「え…」
咄嗟に日番谷を追いかけようとした雛森をクラウドは腕を掴んで引き留めた。
勢いを急に引き止められた雛森は背後に倒れ、クラウドの腹部に背をぶつける。
『お前が行ったところで何も変わらん』
「でも…シロちゃんが…っ」
『私が行く。お前は此処にいろ』
「…っ…」
『…大丈夫だ。冬獅郎とお前の祖母は必ず助ける』
「!」
雛森はクラウドに手を引かれてしっかりと立ち、クラウドを改めて見上げた。
「…綺麗な、目ですね…」
『…ありがとう』
クラウドは微かに笑いかけ、雛森の頭を軽く撫でると走り出す。
「…シロちゃんとおばあちゃんをお願いします!!」
その言葉に片手を挙げて返し、クラウドは虚の霊圧が溢れている場所へと急いだ。