破面騎士

□現世と流魂街
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『…っ』



 まだ思い瞼を押し上げ、クラウドは上空から降りしきる水の冷たさに目を少し細めた。



『…此処は…』



 周りを見渡すと、見たことが無い機械が道を滑るように走っている。
 地面も砂ではなく、緑色の何かが生い茂っていた。



『懐かしいな。…雨か』



 クラウドは空から降る雨に目を細め、暗い周りを徐に見渡した。
 そして徐に髪を滴る水を払い立ち上がる。



『…冷たい』



 そう言葉を発した時、急に背後に何者かの気配を感じた。それと同時に頭上に影ができ、水が遮られた。
 自分の不注意に舌打ちをしたクラウドは背後を振り向き、足に力を籠める。



『…!』



 後ろに居たのは大きな虚でも、死神でもない。
 オレンジ色の長い髪が特徴的な女が何かを頭上に持ちながらクラウドを見下ろしていた。



『…』



 多少の霊圧を感じたが、対象外だと知るとクラウドは肩の力を抜いて女を静かに見上げた。
 視線が交わった時、女は目を細め、口元を緩めて口を開く。



「大丈夫ですか?こんな所で寝ていると風邪ひきますよ?」

『…風邪』

「ええ。傘、忘れちゃったんですか?」



 傘、とはなんだっただろうか。
 そんなことを悠長に考えていたクラウドは応答するために口を開いた。



『…はい』

「あら、貴方びしょ濡れ…良ければウチによっていきませんか?」

『…』



 ぼーっと女を見上げ、また隣に駆け寄った気配に表情を変えず振り向いた。
 視線の先には、同様の髪質をした少年が立っている。



「おねえさん、寒い?」

『…いや』

「そっか!でもそのままじゃ風邪ひいちゃうから……はい!」



 少年は笑顔で女と同じ形をしたものを差し出した。
 反射的に受け取ったクラウドはその物体を見下し、一つ首を傾げる。



『…これは?』

「傘!僕はカッパ着てるから大丈夫!」

『…ありがとう。』

「うん!」


「じゃあ行きましょうか。こっちです」

『…』



 先を歩き出した女を見つめ、見様見真似で傘を差したクラウドはどうしたものかと少年を見下した。










 それから数分間、道路と川の間を3人で歩く。
 その間も大した会話は無く、只クラウドは目の前を歩く少年を見つめている。



「そういえばまだ名乗っていませんでしたね…私は黒崎真咲です。この子は息子の…」

「黒崎一護!よろしくおねえさん!」

『…私はクラウド、』

「いい名前ですね。」

『…』


「おねえさん!僕の事は一護でいいよ!」

『…ああ、一護か』



 黒崎一護、その名を聞いた途端に疑惑から確信に変わった予想に口元を吊り上げたクラウドは目を細めて一護を見下した。



『…お前が…』

「え?」

『…いや、なんでもない』

「そっか!」

「何処からいらしたんですか?」

『…、』



 無意識か意図的か。
 確信を突く様な質問に思わずクラウドは口を閉ざし、足を止める。



「あ!あの子…っ」

『…?』



 一護が川の方角を見て驚いたように目を見開いた。
 それに気が付いた2人は一護の視線を追う。



『…あれは…』



 一護の視線の先には少女の姿をしているものの、大きめの霊圧を持った虚が立っている。
 まるでその虚は演じる様に少女の姿で川に向かっていった。



「ちょっと待ってて!」

『!』

「一護…!?」



 一護の母親が手を伸ばすが、軽々とガードレールを飛び越えた一護に届くはずもなく、空を切った。
 仕方がなくクラウドが傘を閉じ、一護を見た時、



「駄目!一護!!」

『…!』



 クラウドの先に一護の母親が走り出していた。
 川との距離は既にわずかで、虚との距離もかなり近い。



「っ!」

「一護!!」



 一護が必至に少女に手を伸ばすも、案の定その手はするりと抜け、一護は前に体勢を崩した。



「クク…」



 虚は口元を吊り上げ、大きく口を開いた。
 それを見たクラウドは片目を閉じ、もう片方の目を大きく見開く。



『(視虚閃)』



 視虚閃は命中したものの、僅かに遅く、一護の母親に攻撃がめり込んでしまう。
 腹部から大量に出血した一護の母親はその場に倒れこんだ。



「…っ」

『チッ』

「…?……母さん…?」



 一護は自分の上に覆い被さっている母親の名を唖然と呼び、信じられないと目を見開いた。
 その間にも動き出す虚を睨み、クラウドは一護達の傍らに膝を付く。



『おい、しっかりしろ』

「母さん!母さん!!」



 ただ只管そうとだけ繰り返す一護の頭を軽くはたき、クラウドは振り向いた一護を見下し口を開いた。



『一護』

「な…なに…」

『お前の家族を呼んで来い。』

「え…」

『早く』

「っ…」



 一護は踵を翻すと急いで走り出した。
 それを見届けたクラウドはさて、と目の前に倒れる彼女を見下す。



 
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