破面騎士

□蘇る、涙
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『…っ、』



 はっと目を見開けば、目の前に刃の刃先が映った。咄嗟に右手で払い、足を振り上げる。



『…っと』



 それを回避した栞はストンと地面に着地し、右手の刀をクラウドに向け、不機嫌に目を細めた。



『…何さ。何考えてるわけ。』

『…いや、ただ少し…昔の事を思い出していただけだ』

『あっそ。』



 そう言って再び刀を構えた栞は走り出し、刀を振り上げる。
 それを軽く交わしながら走るクラウドは微かに目を細めた。



 ―――栞が死んで、私が生まれた。何故か、などは分からない。
 ただ、栞が死んだ途端に魂は1度消え去り、それを補う様に私が生まれたとしか、分からない。
 だが、栞の母親や父親の言葉を聞いている内、色々と分かった事がある。
 それは恐らく、私が生まれた事ともなんらかかわりがあるのかもしれない。



『…このっ』

『…軽い』



 体の体重を乗せた斬撃を片手で受け止めたクラウドは刀を弾き、左手の刀を口で銜えると即座に左手を地面に着き、栞の顎部分を蹴り上げた。



『…っ、』



 …栞という名は、大切な思い出を、その思い出の居場所を忘れないように、とつけた。
 その言葉を母親から聞いた時、何かが繋がったような気がした。
 栞は、思い出を忘れるつもりは無かった。だが、その思い出によって復讐をすることが嫌だったんじゃないか、と。



 だから彼女は、自ら魂を抹消した。
 けれどそれでは思い出さえも抹消してしまう。
 だから、記憶を共有したもう1人の自分を作り出し、復讐心を抹消し、思い出を残したのだと。


『…―――っ!』



 腹部に刀が貫通した。
 その痛みに眉間に皺を寄せたクラウドはその場を離れ、刀から逃れる。



『…っ、』



 腹部を抑えて数メートル離れたクラウドは、痛みに一瞬警戒を解いた。
 その瞬間だった。栞の刀が肩から斜めに通過したのは。
 血が飛び散り、一護達が息を飲んだ。
 目の前の栞は口元は笑っているものの、目は泣きそうな程に揺れている。



『――――っ』

『これで終わりだよ。…悪かったね、私の我儘に付き合わせて。もう眠っていいよ、クラウド』

『…!』


 ―――ああ、やっぱりか。




 (やっぱり彼女は悲しんでいた)
 (私が生み出した悲しい存在は、私が絶ち切らなきゃ)
 (悲しいな、)
 (悲しいよ、)

 (これまでの私達の物語は――――…途轍もなく、)
 (悲しい)


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