破面騎士

□蘇る、涙
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『――――私は、消えた方が良いのか』



 そう呟いて、ぽすんとソファに倒れる様に寝ころび、目を閉じた。



『…母さん、』

「貴方は私の大切な娘なんだから。ずっと一緒よ。」


『…父さん、』

「お前は偉い子だな。さすが父さんの娘だ。」


『…大好きだったよ。…でも、』

「気持ち悪い…」

『今は、』

「く、来るな…っ」

『ちょっと嫌いかな』



 そう呟くと立ち上がり、台所へ。
 仕舞ってある包丁を取り出し、戸惑う間も無く腹部に突き刺した。



『…っ、』



 腹部が温かい血で濡れる感覚を感じながら、私はその場に倒れこんだ。
 そのままどうにか天井に顔を向け、空いている左腕で目元を覆い隠す。



『生きた、かったなぁ…』



 いつの間にか涙が溢れ出し、頬を伝った。



「アンタは誰の子なのよ!!」

『…なんで、私を…否定、する、の』


「アンタみたいな顔の子供なんていない!」

『…な、で……なんで、なんで…っ』


「生まれてきてくれてありがとう、私の子―――」



 あの言葉さえも、真っ赤な嘘か。



『…っ、殺してやる…っ、あいつ等全員!!』



 私を愛してると言った父も、母も。
 友達だと笑った友人も、私を優しく見つめていた祖父も祖母も!皆…っ
 そう叫んで、私はトス、と何処からか着地したように意識を落とした。



















 ―――だが、恐らく栞は知らないのだろう。
 意識を失い、その乏しい命がこの世から消えた時―――…



「―――私達は、間違っていたのかしら」

「…ああ。現実を受け止めよう。どんな姿になろうと、あの子は私達の大切な娘だ」

「…ええ。謝らないとね、」



 そう話しながら扉を開いた2人は、寝室から揃って廊下に出た。
 そのまま2人はそろそろとリビングの扉を開き、中を覗き込む。



「―――!」



 息を飲む音が静かな部屋に響いた。
 そんな2人の視線の先には、夥しい量の血液が散乱している。



「栞…?」

『……』

「嘘でしょ…、」

「っ、おい栞!しっかりしろ!…目を開けてくれ…っ」



 その様子を見ていた1人の霊は、目を伏せた。
 そして先程まで存在していた自分自身を思い出し、静かに目を閉じる。



 ―――この様子を、見せたかった。



 
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