破面騎士
□蘇る、涙
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『…』
「ひっ!く、来るな…っ」
大の大人である男が後ずさる。
それを他人事の様に眺めている彼女の目は恐ろしい程に冷たい。
…一歩踏み出した。
「来るなってお父さんは言ってるのよ!?」
その言葉と共に飛んできた平手打ち。
渇いた音に栞の動きは止まった。
「気持ち悪い…、アンタは誰の子なのよ!!」
『……誰の子…?』
「っ!そ、そうよ!」
『…アンタ等の子供、だけど』
「アンタみたいな顔の子供なんていない!」
横にある鏡に顔を向ければ、映ったのは己の顔。
黒い髪に、黒い目。
目の前にいる2人と何ら変わりない。
変わる点と言えば、頭に巻かれている白い包帯と、右目の眼帯。
そして、今はふさがっている口元から頬に伸びる大きな傷。
『……』
「気持ち悪い…、私の娘はそこら辺の子供の為に車に轢かれるような子じゃないの…。何処なの、私の子は…私に似たあの綺麗な顔は何処に行ったの!!」
そう言って、前に立つ2人は栞の隣を通り過ぎ階段を上って行った。
『………』
栞は傷を撫で、その場に座り込む。
――――母と父は、プライドが高い。当たり前だ。
父は政治家で、母は昔トップアイドルだった。
そんな2人の間に生まれた私は、とても期待されていて…、愛されていた。
それが何故こうなったのか、というのは2週間前の夜の事が原因だろう。
「このボール打てたら俺、お前に土下座してやるよ!」
「言ったなー?」
そんなことを叫びながらバットとボールを各々構える2人の少年。
そんな2人を私は学校帰りにふと見かけた。
「行くぜー?」
そう言って手から放したボールは前に立つ少年を大幅に逸れて遠くの道路へ。
恐らくわざとだろう、そのボールは私の前に転がって来る。
バットを持っていた少年はボールに向かって走ってくる。
取る必要はないだろうと、その少年とボールを眺めていた。
すると、右側からトラックが迫ってくるのが見えた。
「ったくお前なー。」
恐らくトラックは止まる。
そして少年はボールを持っていくだろう。
やはり私は動かない。
『…?』
…が、何かが可笑しい。
トラックのスピードが落ちていない。
怪訝に思った私は運転席を凝視した。
『!?寝て、る…』
「おいトラックー!止めれよな!」
『待て、』
道路に飛び出した少年はトラックに見向きもしない。
後数メートル。
私は思わず飛び出していた。
「…え…、」
ドン、と押しのけた私はバランスを崩し、その場に足を着いた。
そんな時、横から来たトラックに押し出されるような感覚に陥る。
『っ…』
回る視界に吐き気が襲い、思わず口元を抑えた。
そんな時だ。方向が変わったトラックが地面に倒れた私を再び吹き飛ばしたのは。
今度は道路に留まるのではなく、隣のガラス張りの店へと突っ込んだ。
所々から血があふれ出し、強烈な痛みに私は一瞬で意識を飛ばした。
目が覚めて、病院から退院して家に帰った後にさっきの状況に戻る。