出せない手紙

□出せない手紙
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5月17日。俺は何をしているのだろう。

身体を起こそうとすると激痛がはしった。

脚は血まみれになっていた。
真っ暗なリビングに横たわると母、そして弟の悠と透。

なんとか立とうと手に力を入れると、ある物が視界にはいった。

《Happy Birthday!HIROSHI》
そうかかれたホワイトチョコのプレートだった。
そうか、今日は俺の…。
キッチンから迫ってくる炎。

「助けて…!」

そう叫んだつもりが声にならず、ただヒュウヒュウと喉がなるだけだった。
煙が部屋に充満する。

「げほ…っ!ごほっ!」
もうだめだ。そう思ったとき。
遠くで声が聞こえた気がした。

「博くん!」

それは、本当だったら今日からうちで預かることになっていた従兄弟の准一の父だった。

「あっちにお父さんとお母さんと悠と透がいるの!早く助けて!」

声になったかは分からない。
俺の記憶はここで途切れていた。
俺が目覚めたのはそれから5日後の病院だった。
「テレビが見たい」

そういってまだ身体が不自由な俺は看護婦さんにチャンネルを取ってもらい、テレビをつけた。
すると、テレビにはみなれた家が映し出された。

「…!」

家族は無事なのか、どこにいるのか。現実は残酷だった。

長野明代(43) 死亡
長野孝弘(45) 死亡
長野博 (16) 重傷
長野悠 (13) 死亡
長野透 (09) 死亡

「なんだよ…これ…」
みんな死んだ。自分だけが生き残った。
そんなことを考えたら胃液がこみあげてきた。
「おえ…っ…げほげほ…」
口の中が酸っぱくなった。
けど、吐き足りない。博は吐き続けた。
毎日毎日あのときの光景が目眩に似た感覚でフラッシュバックする。
そして必ず吐く。
事件から10日後。それを見かねた看護婦さんに栄養剤の点滴をする事を告げられた。
だが、点滴をうっているときも食べ物を想像するだけで胃液を吐き出した。

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