小さな本の野望
□人魚姫に旋律を
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あぁ、なんて世界は残酷だろうか。
何故、人は他人に気に入られるようにみんなに合わせなくてはいけないのだろう?
その子の心を傷つけてでも?
「これはこうで、あれは…………。」
書きかけの楽譜を睨みながら俺はそう思った。
俺、バナージ・リンクスは現在病院に入院中である。一応病み上がりの病人だが。
機械弄りとピアノを弾くのが好きで、病院のラウンジにあるピアノに毎日会いにいっている。機械弄りに至ってはたまにしかやらなくなってしまったけど。
「ピアノやって大分経つけど相変わらず作詞とかは下手だなぁ。」
自分で作曲するのは良いが、中々うまくいかない…………。
弾くときなんかミスしたりするし。
あっ、そういえば今日は午後に小さい子達と遊ぶ約束してた。
考えることが多すぎてワケわからない。
「今はここまでにして部屋に一回戻ろう。」
ピアノは俺の生活の一部になっていた、多分母さんがやってたのを見て真似してそれからだったかな。
今でも母さんを越えられる気がしないけど。
曲作りは気がついたらやってた。
聞く人はあんまり居ないが特に気にしてはいない。
「あの曲、明るい感じにしたいからスイングさせてみようかな。」
曲のこと考えながら俺は歩いていたら、人にぶつかった。
自分のことより相手だ、怪我してはいないだろうか。
「大丈夫?」
ぶつかった相手は俺よりも小さい少年だった、多分中学生か小学校高学年位だろう。
エメラルド色したふわふわの髪をしている。容姿は端麗と言ってもおかしくはない……俺が思うには。
でも、何でだろう。
寂しそうなんだ。
「あの、怪我とかしてない?」
少年は首を横に振る。
「…………………。」
「えっと、その。」
この状況をどう乗り越えよう、少年は一言も話さない。
「――――――――。」
その子は俺をもう一度見ると、唇を動かして頭を下げてパタパタと走っていっていった。
もしかして、話せないのか?
「何だったんだろう、あの子。」
悩んでも仕方ない、同じ病院に居るならまた会えるかも。