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□キミのニオイ
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もうすぐ始業チャイムが鳴るので、二人で教室へと戻る。

「前途多難過ぎだなぁ、伊弦(いづる)」
「…うっせぇよ」

千史の肩あたりでも叩いてやろうかと手を上げたその時。

1人の男子生徒が通り過ぎた途端、僅かだけど鼻をくすぐるあのニオイがしてきた。

「見つけたっ!」
「わぁぁっ!?」

俺はソイツの腕を予告無しに掴んでた。



「えと…、2年3組の鷹深 利弥(たかみとしや)です…」
「…同級かよ」

あれからびっくりしてるコイツ―鷹深を屋上まで引っ張ってきた。
千史も俺を諌めつつ一緒に居る。

「…お前なぁ、いきなり腕掴むなよ。せめて服にしろよ…大丈夫だった?」
「あ、はい…」

…確かに、焦ってたとは言え思い切り掴んじまったからな。
チラッと鷹深を見ると、俺が掴んだ所を軽くさすってる。
俺は鷹深の腕を取った。

「ちょっと見せて」
「な、ちょっ…」
「おい伊弦、急にやんなって言ってんだろーが」

慌てる鷹深と千史を無視してシャツの袖をめくるとうっすら赤くなってた。

「あ…」
「痕になってんじゃねーか」

ほらみろ、お前の馬鹿力のせいだと言う千史に俺は慌てる。

「わ、悪いっ」
「いえ、大丈夫ですっ」

俺に掴まれてない方の手を振る鷹深。

「ぼ、僕…色白でちょっとのことでも痕付きやすい体質なんで、気にしないでください」
「けど…」

よく見ると線の細い華奢な身体つきをしているし、185ある俺よりだいぶ小さい身長だし、腕とか細くてホント女の子みてぇだ。
…痕が残ったりしたらやっぱマズいよなあ。
保健室で湿布でも貰ってきたほうがいいか?とか考えてたら、鷹深が俺を見上げた。

「それより…僕に用があるんじゃないんですか?」

そうだった!
なんかこいつのことで忘れかけてたけど、本題があっただろ!

「あー、そうそう。2、3日前にさ、駅近くを歩いてただろ?女の人と一緒に」
「駅近く…女の人と…あー、はい」

鷹深がこくりと頷く。
よっしゃ!
俺は心の中でガッツポーズをした。

「あん時俺、すれ違ったんだけど…何ていうかこう…すっげーいいニオイがしてさ、気になっちまって…そのお姉さんを探してたんだ」

照れ隠しに頭をがりがり掻く。

「え…と、あれは僕の姉ですけど…」
「えっ?あの人お姉さんなの?」

重ね重ねラッキー!
もしかしたら鷹深の彼女、っていう可能性だってあったワケだけど、こう見えて俺略奪とか他人のモノに手を出すとかって嫌いだからな。
もし鷹深の彼女だったら諦めなきゃいけない所だったんだよな。

「…ホント、すげーいいニオイだったんだよなぁ…」

うっとりする俺を冷ややかに見る千史と戸惑い気味の鷹深。

「あの…、もしかして河原君は匂いフェチなんですか…?」
「違うっつーの!…ったく千史も鷹深もおんなじ事言いやがって…」

…でもまあ、普通はそう思うのが当たり前かもしれねえな。

「と、とりあえずそんなワケだから、俺お姉さんにもう1回会いたいんだよな!」

俺が勢いよく言うと、鷹深は瞳を揺らした。
ん?何だ…?
何となく鷹深に違和感を感じたけど、お姉さんに会えるかもって方が大きくてその違和感はかき消えた。

「…そうですか。一応姉には話しておきますね」
「マジ?ありがとうな!」

俺は鷹深に笑いかけると、鷹深は視線をさまよわせて下を向いた。

「べ、別に…。じゃあ僕行きます」

すくっと立ち上がると、鷹深は慌てたように走って行っちまった。

「あ、おいっ…。何だよ、アイツ」

ケー番とアドレス交換しようと思ったのに、とブツブツ言ってたら、千史がうーんと唸った。

「そうか、成る程ねぇ…」
「は?何だよ千史」
「いやいや、こっちの話」

見ると千史はいつものポーカーフェイスだ。

「…まぁ、悪くないと思うけどな」
「だから何がだよ!?」

ホント、意味わかんねぇっつの。




その後、鷹深を捕まえて半ば無理やりケー番とアドレスを交換し、お姉さんの事を聞き出した。

由香さんて名前だとか、彼氏は今は居ないとか、今大学生で就活中とか、色々。
ついで…と言っちゃアレだけど、話の流れで鷹深本人のことも色々聞いた。

演劇部所属で専ら舞台や小道具を作る裏方だとか、ウチのベースの蒼介と同じ中学だったとか、音楽の趣味とか。

「えっ?鷹深もBREST(ブレスト)好きなの?」
「うん…って、河原君も?」
「おー、俺達BRESTのコピーから始めたし」
「えー、凄い!BRESTの楽曲って結構難しいのに!」
「そこがいいんじゃねーか」

思いがけず盛り上がって、楽しくて。
だから少し忘れてたんだ。
…俺の目的。


「うわっ、冷てぇ!」

炭酸飲料を買って思いっきり手を振りながら走る、っつう馬鹿をやらかし、キャップを空けた途端に中身が噴き出して手や顔にかかる。

「…馬鹿だろ伊弦」
「うっせ!つかマジで冷てえんだけど」

呆れた顔の千史を睨んでたら、向こうからぱたぱたと鷹深がやってくる。

「河原君、大丈夫?」
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