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□僕のヒーロー 《完結》
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だからタッくんが今バイクに乗ってるのを見るのは、僕にとってはますます憧れと懐かしさが募るばかりで。

「タッくんはホントかっこいいよ…」

もう一つ、かっこいい理由もある。

バイクの免許とバイクを買うお金。
全部今までの貯金とバイト代で賄ったんだ。
タッくんのおばさんからうちの母さんが聞いてきて、僕に教えてくれた。

「孝志くん、あんな見かけだけど芯は変わってないのよねぇ」

母さんが感心したように言うから、僕はますますタッくんに憧れる。



タッくんとまた仲良くなりたい。
タッくんの近くに居たい。

…でも、タッくんは多分…嫌だろうな。

だから僕は、近くからこっそり憧れて見ているだけにする。

これ以上嫌われないように。
せめて、タッくんを眺めていられるように。




休日。
1人で街に出てきていた。
出掛ける、と言ったら近くだからついでに寄ってこいって父さんに頼まれた場所を探してる…んだけど。

「…あれ?ここ…じゃない?」

どうやら迷った…。

ってか、父さんの地図がアバウト過ぎなんだって!

真剣に地図を見てたら変な裏路地に入り込んじゃったみたい。

「……っ!」

少し向こうの方にヤンキーの集団。
何やら僕を見てニヤニヤ笑ってる。…ヤバそうな雰囲気だ。
ここはさり気なさを装ってさっさと立ち去るのが吉だよね、うん。

地図に目を落としながら、道を探すふりをして回れ右…

「こんなところでどうしたのかなぁ?」

ガシッと肩を掴まれる。…あぁ失敗した。

「えと…地図を見ながら歩いて…」
「へぇ〜、迷っちゃったのかなぁ?」

…なぜ奥へ連れてかれる。

「あの、僕急いでるんで…」
「まぁまぁいいじゃん、俺らが案内してあげるよ〜?」

…嘘だよね?
カツアゲする気満々だよね?

僕の必死の抵抗も虚しく、集団の中に連れ込まれる。

「で、ドコに行きたいわけぇ?」

アバウトな地図をひったくられる。

「ほーほー、ここかぁ〜。案内してあげてもいいけど、その代わりちょこーっと案内料頂こうかな〜?」

…冗談じゃない。
今日発売のライダースーツアクターコンプリート全集を買う予定なんだから!

「あの、お金持ってなくて…」
「はぁ?ガキのお使いじゃねーんだよ!?ざっけんな、さっさと出せよ!」

急に態度を変えて怒鳴るヤンキー。
怖い。
でも、楽しみにしてきたし、頑張って貯めてきたんだ。
僕はボディバッグをぎゅっと抱え込む。

「いや、ホント無いんで勘弁して下さい」
「はぁ?じゃあそのバッグん中みせろや」
「や、ホントに勘弁してくださ…っ!」

ボディバッグの肩紐を引っ張られるけど僕も手を離さない。

「ちっ、しつけぇんだよ!」

途端に腹部に衝撃が走る。
殴られたんだ、と気づいた時には地面に倒れていた。

「げほっ、…ゴホッ」

…痛い。
どっか血でも出てるんじゃないかな。
でもバッグは離さないぞ、絶対!

「まだ頑張るのかよ、コイツ」
「もう1、2発いっとけ」
「脚でいいか?」
「おー、いいねー」

僕の目の前に立つ男が右足首をくいくいと振る。
…脚で蹴られる。
僕は青くなりながら、衝撃に備えて身体に力を入れて目をぎゅっと瞑る。

誰か、だれか助けて…
こんなピンチの時にはいつも…

「テメェら何やってんだ、アァ?」

え………

「そいつをこれ以上傷つけたら許さねえ!」

この声…もしかして…ううん、もしかしなくても。

僕はパッと目を開けた。

金髪が陽に当たってキラキラしてる。
茶色のライダージャケットに黒いパンツが良く似合ってる。
太陽を背に立つ、長身の―

「……タッくん」

「何だテメェ?」
「コイツのダチかぁ?」
「二人まとめてやっちまえよ」

そこにいたヤンキーが全員タッくんに向かって行ったけど。

タッくんの繰り出すパンチは重く、蹴りは的確に相手を捉える。

…すごい。
かっこいい。
やっぱりタッくんは…僕のヒーローだ。
僕は身体を起こしてそんなタッくんをただただポーッと眺めてた。


「くっ、コイツ誰だよ?」
「化けモン並みだぜ、とりあえずひきあげようぜ」

ヤンキー達がバラバラと退散してく。


「ちっ、口ほどにもねぇ」

タッくんは両手をパンパンと払うと、僕のそばまでやってくる。


「…大丈夫か」
「うん…平気。あの…」

一瞬躊躇う。
東雲君、なんて呼んだことは無いし孝志君も…よそよそしい。

立ってるのを見上げる。

「た…助けてくれてありがとう、タッくん」
「………!!」

タッくんが息を飲むのが解った。
…やっぱりタッくん、は嫌だったかな…
思わず俯く。

「ほら」

手が差し出される。
つい手を出すと、ぎゅっと掴まれて引っ張り上げられる。

「わっ!?」

思わずタッくんの方へよろける。

「しっかりしろよ…それともどっか痛ぇのか?」

気遣う声と抱き止める腕が思いのほか優しくて、僕はタッくんを見上げる。
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