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□ハロウィンパニック!
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いつものように頭を撫でられる。
「あ、柾行くんいらっしゃい!」
「こんにちは…尚哉さん?」
「そうだよ〜」
尚哉さんの声がしたから振り返ったら、目に飛び込んできたのは狼男。
いつもさらさらと流している髪をワックスであちこちにハネさせ、頭の上には犬耳ならぬ…狼耳。
裾七分丈くらいをボロボロ加工した、グレーのシャツをボタン3つくらい開け、黒いロングベストを羽織り、ダークブラウンのパンツを履いている。
首もとには首輪、口からは牙…というか犬歯が顔をのぞかせてる。
ワイルドな狼男さんだ。
「わぁ、狼男だ!尚哉さんもカッコいいですっ」
「ありがとうね」
男性にしては綺麗すぎる、でも大きな手で僕の頭をさらりと撫でる。
「今ね、孝志くんも着替えてるよ」
「そっ、そうなんですか」
タッくんの名前を出されてついどぎまぎする。
…もう。まだ見てないうちからこんなにドキドキして、僕大丈夫だろうか。
「着替えましたー…、あ、高原くん」
まさにフランケン、といった体格でフランケンコスをしているのは、星野 寛哉さん。
大学で柔道部に所属していて、190センチもあるけどいかにも柔道部!ていう感じは全然しない。
いつもにこにこしていて、「気は優しくて力持ち」て感じのお兄さんだ。
短髪黒髪をツンツン立たせて、こめかみ辺りにネジの部品(もちろん作り物)をくっつけている。
右頬に縫い跡のペイントをして、赤いチェックのワークシャツに、サスペンダーでジーンズを吊ってる。
「えーと、寛哉さんのはフランケンシュタイン?」
「そう。…全く、店長のチョイスはよく解らないよねぇ」
苦笑いを浮かべてるけど…寛哉さんも尚哉さんも、すっごくよく合ってると思う。
「さぁて、じゃあ柾行くんにも着替えてもらおうかな」
楽しそうに笑う佑壱さんに、僕は一抹の不安を感じるんだけど。
「さぁさ、こっち来て」
ぐいぐいと手を引かれ、何故か二階の空き部屋へと連れて行かれる。
「はい、じゃあ柾行くんはこれね」
ハンガーに掛かった衣装を見て、僕は目を丸くした。
「え、これ…?」
「いいでしょ可愛いでしょ〜?柾行くんにぴったり!」
口を瞬かせている僕に、佑壱さんはにっこりと一言。
「さ、忙しくなるから用意しちゃおう。ね?」
「えと…これ…」
ちょっと躊躇ってると、佑壱さんが僕の耳元で囁く。
「孝志くん、柾行くんの衣装楽しみにしてるんだけどなぁ〜」
「そ…う、なんですか?」
タッくんが楽しみにしてるのかぁ…。
じゃあ…。
「わ、分かりました…着ます!」
「じゃ、部屋の外で待ってるからね」
ひらひらと手を振って佑壱さんが部屋を出て行く。
僕はふうっと息を吐き出して衣装を手にした。
何とか着替えて、姿見の前に立つ。
「うー…こんなん絶対似合わないよねー…」
早くも「着ます」って言った事を後悔し始めた。
黒いノースリーブのタートルネックは、丈が短くてお臍が出ている。
襟がついた長めの黒いベストを羽織ってはいるけど、これじゃあお腹が冷えそうだよ。
合皮の黒いショートパンツはうんと短くて、女の子が履く太腿まであるニーソックス?とかいう靴下も真っ黒。
膝下までの編み上げブーツは、流石に黒じゃなくてダークブラウン。
「それにしても…何のコスプレなんだろ?」
首を傾げながら部屋を出ると、佑壱さんが待っていた。
「お、お待たせしました…」
「うんうん、よく似合ってるよ〜」
「あの、これは…」
何のコスプレなんですか、と聞こうとしたら肩を掴まれてそのまま部屋に戻される。
「さて、仕上げといこうか」
「仕上げ…?」
にっこり笑った佑壱さんが紙袋から取り出したのは。
「ね…ネコ耳!?」
これまた真っ黒の、ネコ耳カチューシャ。
「これもね」
「尻尾…?」
長めで、針金でも入っているみたいでくいっと上に持ち上がった、勿論真っ黒な尻尾。
「柾行くんには可愛い黒猫ちゃんになってもらうからね」
く、黒猫…。
ある意味超定番だけど…面白味無いんじゃないかなぁ。
っていうか、今可愛いって言われた?
「あの佑壱さ…」
「さあさあ、着けて着けて!」
僕の言葉を遮り、佑壱さんはネコ耳カチューシャを僕の頭に着ける。
「わっ!?」
「うん。可愛い可愛い。はいコレ」
手渡されたのは、ネコ尻尾。
「お尻の辺りに尻尾挟むスリットが入っているから、そこに差し込んでね」
「えぇっ!?」
さっき履いた時は気づかなかったんだけど!
慌ててお尻の辺りを撫でると…
「…あ」
確かに小さなスリットがある。
尻尾の根元はちょうどクリップみたいになっていて、スリットに尻尾を差し込み中にベルト通しみたいな輪っかに挟む。
っていうか、これ確実に黒猫コス専用の衣装だよね…。
一体佑壱さんはどこで買ったんだろ。
「最後にこれ付けてね」
そう言って手渡されたのは、真っ黒で長ーい手袋。