Second

□荒北さんと小野田くん〜弱虫ペダル二次〜
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その人は、するりと僕の中に入ってきた。
少し乱暴な物言いも、僕の頭を掻き回す手も、全部ぜんぶ、ドキドキさせられるんだ。


「小野田チャン、待たせたか?」
「いえっ、大丈夫ですっ!」
「今日はレポート提出日でサ、ぎりぎりだったんだヨ」
「ふふ、お疲れ様でした」


荒北さんは大学生になって、僕は高校2年になった。
何故か荒北さんと仲良くなり、こうして時々待ち合わせてはご飯を食べたりしている。

僕は荒北さんが…好きだ。
初めて会った時から、何故かわからないけどドキドキが治まらないんだ。

巻島さんや今泉くん、鳴子くん達に感じる尊敬や親しみとは全然違う感情で…多分これは恋なんだ。

だけど荒北さんは、僕のことを「気の合う他校の後輩」ぐらいにしか思ってないだろうし、かっこいいから女の人にもきっとモテる。
大体男どうしなんて気持ち悪いかもしれない。
僕は今日も気持ちに蓋をして、荒北さんと向かい合う。

ある日。

「映画、ですか?」

荒北さんが映画のチケットを差し出してきた。

「恋愛モノだけどサ、ロードレースモノでもあるんだ」
「わぁ、見たいです!」
「じゃ、行こうぜ」
「はい!」

恋愛モノ、という言葉にドキッとするけど、深い意味はないハズだと自分を落ち着かせる。

映画は、ロードレーサーの主人公が仲間と一緒に優勝を目指す話で、ラスト前にずっと自分やチームを支えてくれた女性に告白をして、優勝も彼女も手に入れる。っていうベタベタだけど感動するモノだった。
告白シーンでは、夕焼けの中、橋の上で彼女に想いを告げるところがすごくじーんとした。
…僕もあんなシチュエーションで好きだって言われたいなぁ。

「なかなか良かったな」
「そうですね!ラストがすっごく良かったです!レースシーンも迫力あったし!」
「あぁ、あと…」

そこで言い淀む荒北さんに、僕は首を傾げた。

「荒北さん?」
「…あー、あとサ…
告白のシーンも、良かったよナ」

どきん、と心臓が鳴る。

「そ、そうですね!夕焼けの綺麗なとこでなんて、ロマンチックですね!」

どぎまぎしながら喋ってる僕を、荒北さんはちらっと見る。

「小野田チャンはさ、ああいうのってどう思う?」

ドクドクと忙しなく鳴る心臓。

「そ、そうですね…ああいう告白って、憧れますよね。すごくロマンチックで、ちょっと羨ましいです。僕もされてみたいなぁ、なんて。アハハ」

言ってから気がつく。
されてみたい、なんて普通おかしいじゃないか。女の子ならともかく、男だったらしてみたい、じゃないか!

「あっ、違っ…!
し、してみたいっていう逆っていうか、僕なんかそんなの出来ないっていうかあのあの」

しどろもどろな僕は荒北さんの意識には無いみたいで、

「そうかアリか…」

何やら考え込んでいて、その姿に僕は嫌な予感がした。
とりあえずこの話題から離れようと、別の話題を振ろうとしたけれど。

「な、なんかお腹空きません?どっかでご飯―」
「俺も、してみようかなァ」
「っ!」

ちょっと照れたような荒北さんを見て、僕は気が付く。
荒北さん、好きな人が居るんだ。
ぎゅうっと胸が締め付けられる。

「…すみません、僕今日用事があって」
「小野田チャン?」
「じゃあ、失礼します」
「あっ、オイ!」

荒北さんがなんか言ってるけど、振り返ることも出来ずに俯いたまま走り出す。

苦しい、痛い。心臓を握り締められてるみたいだ。

いつの間にか降り出した雨で、涙なのか雨なのか分からないくらいに僕はずぶ濡れになってた。



それから一週間。
荒北さんからは連絡がないし、僕からも電話はおろか、メールすらしていなくて。

荒北さん、告白したのかな。
上手くいったのかな。
もし恋人が出来たって言われたら、上手く笑えるかな。

自転車を押しながら、赤く染まった夕焼けの空を眺める。

いつも通る通学路。
人通りの少ない橋を空を眺めながらぼんやり渡ってると、向こうから同じように自転車を押す人が近づいてくる。

「小野田チャン」
「あ、らきたさん…」

この間のこと、謝らないと。
あと、部活とテストで連絡出来なかったって言い訳して、いつもみたいに笑わないと。

「あのっ、この前は」
「小野田チャン」

静かだけど迫力のある荒北さんに、僕は全身が強ばる。

「いきなりでびっくりするかもしれねぇけど、俺…好きなヤツが居るんだ」

ズキン、と痛みが全身を貫く。

「それで告白しようと思ってサ…
こないだ小野田チャンもいいって言ってくれたから、ちょっとあの映画の真似してみようかなって」

ズキン、ズキン。
ああ、やっぱり。
でも、荒北さんを応援しなきゃ。

「そ、うですか…
荒北さん、かっこいいから絶対相手の人、OKしてくれますよ」
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