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□キミのニオイ
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初めての経験だった。
くらりとして、ドキッとして、恍惚として―勃った。





「あー、あちぃ」

その日俺は、急に気温が上がって蒸し暑い中歩いていた。
背中には俺の相棒が入ってるギターケース。
…しかしいくら相棒でも、こう暑いと背負いたくない。

「つーか、そもそも秀明のせいだ。練習スタジオ押さえたとか言っときながら曲出来てねぇとかありえねーだろ」

俺は軽音部所属で「LIPS」っつうバンドを組んでる。
基本的なボーカル、ギター、ベース、ドラムっつう組み合わせだけど結構人気もあるし自分達で曲とかも作ってる。

今日はボーカルの秀明がスタジオを借りて作った曲を披露…のハズだったんだけど。

「毎月順番で、1曲作曲することって決めた張本人の癖によー。なぁにがスランプだよ…ったく」

本人はスランプで〜なんて言ってたけど、どうせ今片想いしてる相手とうまくいかなくてへこんでたんだろ。
あいつ、とことん恋愛体質だからなぁ。どこのOLだっつーの。
俺はため息を吐き出す。

「とりあえずウチ帰るかぁ」

だらだらと駅に向かって歩く。
ちくしょう、腹減ったなー。つか暑い。
明日から半袖にしよっと。

なんて事を考えながら歩いてた。

沢山の人とすれ違う。
それは日常で、気にもとめない事で、特別な事じゃないはずだった。
だけど、その時は違った。

通り過ぎた時ふわり、と俺の鼻を通り抜けるニオイ。

「―っ!?」

一瞬、息が止まる。
甘いような、スッとするような、それでいてどこか身体の中心を疼かせるような。
今まで嗅いだことのない、ニオイ。

花でもなく、食べ物でもなく、香水でもなく…何だか判らないけど、疼く。
くらり、と軽い目眩のような浮遊感。
煩いくらいにドキンと跳ねる心臓。
そして恍惚感。
じんわりと下半身が熱を持つ。

俺はバッと振り返る。
もう、数メートル先を歩く男女が見える。
1人は俺より背の低い黒髪の男―あの制服はウチの学校だ。
そしてもう1人が―隣の男より背が高くて、緩くパーマをかけた肩までの髪。
黒いスーツとバッグでOLさんだろうと判る。
顔は見えないけど―多分あのニオイはあのお姉さんからだ。

心臓が、煩い。
あのニオイを、もう一度嗅ぎたい。
あのニオイに感覚を捕らわれ、意識を攫われ、理性を奪われたい。


俺は二人の後ろ姿が小さくなるまで動けなかった。

ハッと気づく。
お、俺の…ムスコが…勃ってる!!
慌てて持ってたスクバで前を隠しながら、駅の構内へと駆け込む。
トイレに着いてもまだ元気って…どんだけだよ、俺。
つか、これってやっぱさっきのニオイのせい…だよな。
とりあえず抜いとくか。

俺は洋式便器に座り、ズボンとボクサーパンツをずり下げ、しっかり上を向いたペニスを握る。
2、3回扱いただけで先端からとろとろと先走りが溢れる。

「…っ、ん…く…っ、」

更に上下に扱くとギチッと反応して固くなる分身。

「あ…、ハァ…く…っ」

追い詰めるように手の動きを早める。
排出感が強まる。

「ぁ…も…ぅっ」

不意に、さっきのニオイを思い出す。
その途端。

「―っ、く…!!」

自分の掌にぶちまけた白濁の汁。

「は…、あ」

青臭さに顔をしかめながら、備え付けのペーパーで拭き取る。

しかし、俺も数え切れない程自分でヌいてきたけど、ニオイで勃ってイったのは初めてだ。

「あー…、やべぇかもな」

俺は独り呟くと、ギターケースを抱え直して個室から出た。




それからというもの。
俺はあのニオイのお姉さんに出会うべく、たった一つの手掛かりの「隣に居た男」を探してた。
ウチの学校の制服着てたから、絶対ウチの生徒なんだ。
ただ、顔も見てなきゃ学年も判らない。
そいつとあのお姉さんの関係だって判らない。
けど、そいつに会えばあのニオイがする気がした。
お姉さんの残り香がくっついてるような。



「お前さぁ、最近何学校中徘徊してんの?」

昼休み。

クラスメートでバンド仲間の尾田 千史(おだ ちふみ)に半ば拉致られるように屋上まで連れてかれる。

「えーっと…人探し」
「誰探してんだよ?」
「それが色々不明でさぁ」
「…はぁ?」

千史は眉をしかめて俺を見たが、ふぅっと息を吐き出した。

「説明をしろ、説明を」

千史とは幼なじみで付き合いも長い。
だから今の俺の状態を話しても解ってくれる確信がある。
俺は紙パックのカフェオレにストローを差した。



「ニオイでってお前…匂いフェチだったっけ?」
「ちっがーう!その人のニオイだけだって!」
「昔から変なこだわりとかあるヤツだったけど…ニオイねぇ…」
「おいっ!可哀想な目で見んなっ!」

案の定、馬鹿にはされなかったけど可哀想な眼差しで見られた…。
ちくしょう、自分だって変な性癖あるくせに!

「まぁそんなんじゃ見つかりっこねえだろなぁ」
「ぐ…そ、そんなのまだ分からねえだろ!?」
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