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□擬人化シリーズ:春と冬
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僕の恋人は、女王様だ。



「ハルぅ〜、アイスまだぁ?」
「はいはい、お待たせ」
「あっ、ハルのバニラ?俺そっちがいい!」
「…いつものチョコチップがいいって言ったのフユだよね?」
「だってバニラ美味しそうなんだもん。取り替えて!」
「…ハイハイ」

僕は女王様の仰るとおりに、とばかりにアイスを取り替える。

「いただきまーす!んー、美味いっ」

まるで子供みたいに無邪気で可愛い笑顔で、アイスを食べる。
この笑顔に、僕は逆らえない。

「なーハル、明日どこ行く?」
「そうだね…観たい映画があるんだけど」
「映画かぁ…それ、俺も好きそう?」
「うん。ファンタジーアクションものだから、フユも好きだと思うよ?」
「じゃあそれにしたげる。その代わり後で本屋行くから」
「ハイハイ」

フユは本…というか活字が好きだ。
本屋なんか行くと、軽く2時間は放置されてしまう。
だから一緒に居る時にはなるべくなら寄りたくない場所だ…けど。

「久しぶりのお出かけデート、楽しみだな!」

僕を見てにっこり笑うフユ。
破壊力抜群の、笑顔。

嗚呼、僕は女王様の下僕です―



だけど。


「よ、フユ」
「おう、アキ」
「篠原幹彦の新刊読んだ?」
「まだなんだよ〜」
「俺、もう読んじまったぜ」
「嘘っ!」
「ネタばらししてやろっか?」
「わぁ馬鹿!止めろ!」

アキに口を塞ごうと飛び付くフユ。
笑いながらフユの頭を撫でるアキ。

アキはフユと同じ活字中毒者で、フユと趣味も話も合う。
…僕には入り込めない。

身長が165センチと男の中では低いし、黒髪に赤メッシュを入れてはいるが、肌は白いし目は二重。
ちまっとした印象のあるフユは、中身に劣らず外見も可愛いのだ。
いつもつるんでるナツとアキ、それに僕も180センチ以上あるし、アキとは本好き同士、ナツとは幼なじみという関係で、僕より仲がいいんじゃないかといつも僕はハラハラしている。


実際、どうしてフユが僕を選んだのか判らない。
僕はアキみたいに本の話もしてやれないし、ナツみたいに昔からよく知ってるワケでもない。
僕がフユに一目惚れして、告白して…そして今に至るわけだけど。

フユは本当に僕のこと、好きなのかな。
僕のこと…彼氏だって思ってくれてんだろうか。

そう思いつつ、僕は今日も女王様のお世話をする。




ある日。

フユの部屋を訪ねて行ったら来客とおぼしき靴が一足。
男物。

どき、として慌ててリビングに向かう。

「フユー?」

リビングのドアを開けると、そこには―

「ア、キ?」

リビングのローテーブルを挟んで、アキとフユが座っていた。

「よぅ、ハル」

爽やかとニヒルの中間のような、それでいて様になる笑顔を向けるアキ。

「ハっハル、早かったなっ」

何となくフユが慌てて見えるのは気のせいか。

「えと…アキが居るって知らなかったから…バーガー、アキの分無いけど…」

フユに頼まれたハンバーガーにかこつけて、下らないことを言う。
…いや、僕そういうことが言いたいんじゃなくて!

「あぁいーよ、俺もう帰るし」

アキが立ち上がる。

「アキ!」

何故か縋るような様子のフユ。

「いや、さっきのでいいんじゃねぇ?つか、俺なら何でも嬉しいって言ったろ?それは変わんねぇよ、な?」
「…うん」

アキがフユの頭を撫でる。
ズク、と僕の奥底で何かが蠢く。

「じゃー俺帰るわ、またな、ハル」
「あ、ああ…」

ぱたん、とドアを閉めてアキが帰って行った。

「…、アキが来るなんて珍しいね?何か用事でもあっ…」
「あー、腹減った!早く食おうぜ!あ、照り焼きチキン買ってくれた?」

…質問をはぐらかされた。

「あ、うん。こっちの袋」
「サンキュー」

変にぎこちない空気を漂わせて、2人でハンバーガーを食べる。

歯車がずれていくような、そんな感覚を覚えた。




「ねぇねぇ、ハル」

僕のバイト先にユキがやってきた。

「最近さ、フユと上手くやってる?」

ドキッとする。
ユキはフユとチマい同盟でも組んでんのか、ってくらいチビっこでフユとも仲がいいが、中身は成熟してて頼りになる。

「な、何いきなり…」

いきなり核心を突く質問も、的を射てる。
あれから何となくフユに避けられてる。
会える日も減り、アキとこそこそ何かしているみたいだし、何より以前のように女王様っぷりな振る舞いが、殆ど無い。

「最近2人一緒にいないし、ハルの表情固いから」

…よく見てらっしゃる。

「…、大丈夫だよ」

まだ、と心の中で付け足す。

多分、全て何となく解ってるんだろう。
ユキはふぅ、とため息を吐く。


「…まぁ、フユに限って…って思うけどね。何かあったら相談して、ね?」
「…ありがとう」

心配性の友人に、貼り付けた笑顔を見せた。




「…はぁ、疲れた」

深夜近くに漸く帰宅する。
あれから、余計な事を考えないようにバイトの時間を増やした。
おかげで連日深夜帰宅だ。
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