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□こんな恋のはじまり
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その日はいつものように映画を見に行って、いつものように帰ってくるはずだった。
今までだって、レイトショーを見に行ってあんな人に遭遇したことなんか無かったし。

でも。
遭遇しちゃったんだ。
スッゴいイケメンだけど、スッゴい変態さんに―




「はぁ…間に合ったぁ」

僕は席に座ると一息ついた。

ったく、兄貴もいい加減にして欲しいよ。
明日提出のレポートを無くした、って言うから一緒に探してあげたのに。

「あ、悪い悪い。鞄に入ってたわ」

灯台下暗し、って言葉知ってるか?

「あー、映画行くんだっけ?ホラ急がないと間に合わないぞ」

誰の所為だと思ってんだよ!

駅から映画館まで走って、何とか間に合ったけど。


やれやれ、と席に身を沈める。

僕はいつも一番後ろの席を取る。
それは隣にあまり人が居て欲しくないから。
人見知り気味の僕は、家族以外が近くに居ると緊張して身構えてしまう。
それに、映画を見てて感動したり笑ったり、っていう反応を見られたくないし。

平日の、レイトショーで、一番後ろの席なんて、周りに誰も居ない。
僕はリラックスして油断してたんだ。

予告が始まる直前に入ってきた男の人が、何の迷いも無く僕の右隣に座った。
え…、な…何で?
他にいっぱい空いてるよ?
前も真ん中も空いてるのに、何でココ?

僕は隣の男の人がどんな人かなんて確認する勇気すらない。

ど、どうしよう…
緊張する。
どっか別の席に移動しちゃおうかな。

なんて考えてたら映画が始まってしまった。
…仕方ない。
映画に集中しよう。
僕はスクリーンに集中した。


映画はB級のスプラッタ・ホラー。
ゾンビに追われながら隔離された街を脱出する、って内容だ。

ゾンビが部屋に侵入しようとしてるのに気づかない主人公。
後ろだよ、後ろだって。いわゆる「志村、うしろー!」ってヤツだよな。
どうせこの後、背後のゾンビに気づいてうわぁぁぁって展開だろ。
そう思いながらもスクリーンに集中していたら。

する、と僕の太腿に手が這う。

「…っ!?」

びくっとするけど、その手は隣の男の人の手で、ただ置かれてるだけ。

ど、どうしよう…
何でこの人、僕の太腿に手置いてるの?
でも、置いてるだけだし…映画に集中して無意識かもしれない。
そのうち気づいてどいてくれるかもしれないし。
ぼ、僕も気づかない振りしよ…。

と思ってしばらくはそのままだったんだけど。

もぞもぞと手が動き出す。

「…っ!」

明らかに手は僕の股間へと伸びてくる。

えっ!?
な、何でなんで!?
隣の人、男の人だよね!?
僕も男なんだけど!!
そ、そりゃイケメンじゃないし身体だって細いし、たまーにボケたおばあちゃんとかに「お嬢ちゃん」とか言われることもあるけどさ!

正真正銘男だからっ!
ムネ無いし、一応チンコだって付いてるからね!

あわあわしてる間に手は股間にたどり着き、するりと撫でられる。

「ひゃっ!?」

思わず声が出る。
けれど、隣の人はお構いなしに僕のジーンズ越しに股間を撫で続ける。

僕は出来るだけ離れようと、隣の人とは反対側の隣の席の方に寄る。
今になって思えば、さっさと席を立つとか何するんですかって言うとか、拒否する方法は色々あったはずなんだけど、その時は何にも考えられなかったんだ。

けれど、隣の人は更に手を伸ばしてくる。
そのうち、ただ撫でるだけじゃなくて指で僕のモノの形をなぞるようにしだした。

「…っ!?」

信じられない。
僕の、僕のが…反応しちゃってる。
ジーンズを押し上げてむっくりと勃ってきている。

「…感じてきちゃったかな?」

初めて隣の人が声を出した。
…そう言えば、最初から緊張して全然見てなかったけど、声の感じからしてどうやら若い男の人みたい。

「や、やめ…」

やっとのことで絞り出した声は、映画の効果音にかき消される。

隣のお兄さんは尚も手を動かし続けて、僕のチンコを下から上へ擦りあげる。

「っ!?…、ゃぁっ!」

ビクン、と身体を震わせる。

「しぃっ。…他の人にバレちゃうよ?」

いつの間にか隣のお兄さんは、上半身を僕に近づけている。

「もうこんなに固くして…気持ちいい?」

すぐ耳元で囁く。
このお兄さん、低めのイイ声でさっきから僕はゾクゾクしっぱなしなんだ。

そんなのを振り切るように、ぶんぶんと頭を振る。

「ふふ、必死になっちゃって…可愛いね」

不意にカチャカチャと音がする。
ハッと気が付くと、お兄さんが僕のベルトを外してた。

「ぁ、やめ…っ」

手を振って抵抗しようとしたけど、次の瞬間。

ふぅっ。

耳元に息を吹きかけられる。

「ぁっ…!」

身体中にゾクゾクと何かが走る。
手に、力が入らない。

「君は耳が弱いみたいだね…」

お兄さんは囁くと、僕の耳をぱくりと唇で挟む。

「やっ…!!」
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