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□僕のヒーロー 《完結》
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それは昔、僕らがまだ小さくて純粋にヒーローを信じていた頃。


「やーい、まーくんのよわむしぃ〜」
「ふぇ…っ、ちが…ちがうもん…、ぐずっ」
「かえしてほしかったらここまでおいでー」
「うぇっ…、かえしてよぅ、ぼくのだよぅ」

保育園のいじめっ子たちに玩具を取り上げられ、泣いてた。

「かえしてよぅ!」
「やーだよ!」

その時。

「かえしてやれよ!」
「…、タッくん」

僕の一番の友達、タッくん。

「まさゆきをいじめたら、おれがゆるさないからな!」
「なんだよー、いつもたかしくんはまーくんのみかたでずるいじゃん」
「まさゆきはおれのいちばんだからいいんだ!」


そう言って、いつも助けてくれたタッくん。
タッくんはあの時から僕のヒーローだった。





「おーい、高原。帰ろうぜ」
「あ、うん」

あれから10年。
僕らは成長して高校生になったけど。

「なあ、先週から始まったライダー見た?」
「あー…一応ね」
「スーツコスチュームが微妙だけど、設定とか俳優は良くね?」
「うーん…」

…そう。
僕は小さい頃ヒーローに憧れてたのが高じて、特撮オタクになっていた。

そして。

「バイクがかっこよくないもん」
「そうかぁ?まぁ俺はバイクに興味無いけどね」

僕の隣に居るのは。

「ところで椎名、今日バイトとか言ってなかった?」
「あー、今日は別の人と交代になったんだ」


椎名 浩太郎。
高校に入ってから仲良くなったヤツ。
僕と同じオタクのくせに爽やかイケメンで羨ましい。

「何でも明日集会があるから休みたいんだってさ」
「集会?何の?」
「その人チームに入っててさぁ…、と。噂をすれば」

椎名の目線を追うと、ウチの学校のヤンキー集団が視界に入る。
あの集団もどこぞのチームに入ってるらしい。

「…あ」

その集団の脇を金髪頭が1人通りかかる。
呼び止められるも言葉を交わす程度で通り過ぎる。

そしてやがてこっちに向かってやってくる。

どきん、と心臓がせわしなくなる。
どうしよう。ちゃんと顔を見たいのに、緊張して顔が上がらない。

どんどん近づいてくる。
あと数メートル、てとこでやっと顔を上げる。

眩しいくらいの金髪に、鋭いくらいにスッとした切れ長の瞳。
身長は軽く180センチを超えて、いわゆる長身痩躯。
着崩した制服が、これまた嫌みなく似合ってて、指輪やチェーンをさり気なく着けてる。
椎名とは全く別のタイプのイケメン…ヤンキー。

僕は何とか声を掛ける。

「た、たっ…」

けれど、僕の声は届かずにスッと通り過ぎて行ってしまう。

「…相変わらずこぇぇよな、東雲孝志」

…そう。
昔僕をいつも助けてくれたタッくんは…ヤンキーへと変身してしまっていた。


「あれがお前の幼なじみとか、今だに信じらんねーよ」
「…昔は普通だったんだってば」

ずっと仲良くて、ずっと一緒だったタッくん。
中学2年の夏休みすぎてから、あんなになっていった。

「…もう、昔には戻れないのかなぁ」

僕は今でもタッくんが好きだ。
僕の憧れだし、強いし、かっこいいし。
だけどタッくんは…もう僕をあまり見ない。
話も殆どしない。
僕が特撮ヒーロー好きなまんまで、背も低いし、童顔で年下に見られがちで、頼りないまんまだから…僕とはもう付き合えないんだろう。

知らず知らずのうちにしょんぼりしてたらしい。
突然頭をぐしゃぐしゃっとかき回される。

「わぁっ!?何すんだよ椎名っ!」
「おー、復活したか」
「酷いや!」
「ははっ。高原は元気な方がいいって、な?」
「あ…」

椎名は僕の髪を手櫛で梳く。

「昔は昔、今は俺とダチだろ?」
「う、うん…」

ちらりと椎名を見上げる。
椎名も身長が高い。
タッくんといい勝負だ。
そして大抵の女の子なら恋に落ちちゃうんじゃないか、っていうキラースマイルで僕を見る。
…僕は男なんだから無意味なんだけどね。

「俺、高原と知り合えて良かった」

とか甘い台詞もさらっと言うし。

だからさぁ…僕にイケメンぶりを発揮しても無駄だってば。

とは言うものの、僕も椎名のことはいい友達だから悪い気はしない。

「うん、僕も!」

素直にそう言うと、椎名はまたぐしゃぐしゃっと頭をかき混ぜる。

「ちょっと!?」
「…っ、高原…反則だぞ…っ」
「…は?」

…何のことだ?





「あ、タッくんだ…」

家に帰って自分の部屋にいたら、バイクのエンジン音が聞こえてきた。
タッくんの家は僕の家の斜め2軒向かい。
だから学校以外でもタッくんを見ることは出来る。

「タッくんかっこいいよなぁ…」

僕は窓から外を眺める。
タッくんは高校に入ってからバイクの免許を取って、しょっちゅう乗っている。
僕はバイクも好きだ。
昔お気に入りだったライダーが、カッコ良くバイクに乗っていて、タッくんと二人でかっこいい、大人になったら僕らも乗りたいと憧れてた。
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