終わり無き旅路にて

□悪夢
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 彼女はいつも泣いていた。何がそんなに哀しいのかボクに縋り付いて憎々しげに泣いていた。
 そして言うのだ。
 誓って。
 何処にも行かないで。
 私の傍にいて。
 ボクはそれを引き受けた。
 ボクは彼女が好きだったわけではない。恩義は感じていたけどそれ以上のものはなかった。
 ただ、彼女が泣く姿が嫌だった。
 泣き声が、呟く台詞が、縋り付く手が、不快にしか感じられず。
 ボクは嘘をついた。
 たわいもない嘘のつもりだったが彼女はたいそう喜んだ。
 ボクには理解出来なかった。
 彼女はボクにいつも何かを求めていたけど、それが何か今だわからない。
 でも、彼女の求めているものをボクが返せないだろうことはたぶん出会った時からわかっていた。
 だから、救いを求めるかのように伸ばされた彼女の手をボクは最後には振り払った。
 その時の彼女の顔をボクは忘れることは出来ないだろう。
 所在をなくした手を中に浮かせたまま今度は彼女が何も理解出来ていなかった。
 ここを出て何処に行くというの。
 行く宛てなんてないでしょ。
 私以外の誰があなたを受け入れるというの。あなたみたいな人は誰も受け入れないわ。
 私にはあなたしかいない。あなたには私しかいない。私達は一緒じゃなければいけないの。
 忘れたの? 誓ったじゃない、私達は永久に一緒だって。
 だって、あなたは私の――
 それが彼女と交わした最後の会話となった。


 瞼を閉じれば今だ時折彼女の声が聞こえる。
 ほら。
 言ったでしょ。
 誰もあなたを受け入れない。
 あなたには私しかいない。
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