甘い鳥籠

□お前の幸せを願って……
1ページ/2ページ

今日は昼過ぎから仕事が休みだった。

ここのところ、休みがなく仕事に追われていたので、少し休養を取るようにとルーファス様から休みをもらったのだった。

だが、休みだからといって特にすることがある訳でもなく、何をしようか悩んでいると不意にザクスの顔が浮かんできた。

仕事の時でさえも、仕事をしているのか遊んでいるのかわからない私とは正反対の彼。

最近はあまり会ってない。……会いたい、と思った。

いつもザクスは神出鬼没だが今は昼過ぎ、というよりティータイムの時間に近い。

ということは、シャロン様と一緒にいるかもしれない。

なので、さっそくシャロン様をたずねてみた。

シャロンはお気に入りの紅茶を飲みながら、オズやギルバート、アリスとともに、楽しそうに談笑していた。

だが、そこにザクスの姿はない。

シャロン様にたずねると

「今日はブレイクを見かけていませんわよ。」

と言われてしまった。

オズにも聞いてみたが、心当たりはないらしく

「レイムさん、ブレイクをさがしているの?めずらしいね。」

と言われ、大した用ではないのでと曖昧な返事をした。

どうしようかと悩んでいると、シャロンが思いついたように私にいった。

「もしかしたら、自分の部屋にいるかもしれませんわ。もしブレイクをさがすのでしたら、こちらに来るように言ってください。今からお茶会、という程ではありませんが、天気がよいのでみんなで、お庭でお茶をしようと思ってたのです。もちろん、ブレイクへの用が済んでからでかまいませんわ。」

ありがとうございます、とお礼の言葉をいい、私は部屋を出た。

ザクスはあまり自室にいないのですっかりさがすのを忘れていた。






彼の部屋に着き、ドアを1、2回ノックする。

……応答無し。

いつもはふざけた返事が返ってくるのだが、今日はなんの物音もしない。

寝ているのかと思い、引き返そうと思たが一応、ドアノブをひねってみた。

あいた。

部屋の先にはベッドがあり、彼はそこで寝ていた。

寝ているのに、鍵をかけないなんて彼らしくもない。

そう思いながら私は近寄り、彼の美しさに息をのんだ。

窓から入ってくる温かな日差しに反射する、手触りの良い高級糸のような見事な銀髪。

ラフな格好の下にのぞかせる透き通るように白い肌。

私の愛した彼の姿だった。

彼は気配に敏感なので、ここまで近づいたらいつもは起きるのだが全然起きない。

そして、彼がうなされているのに気付いた。

なんだか不安になり

「ザクス、ザクス。」

と声をかける。

すると彼は、かつて災いをもたらすと言われた、禍罪の紅眼をゆっくりと開けた。

私は彼の、きれいで鮮やかな紅い眼が好きだが、そんなことはおくびにも出さない。

「おい、ザクス。どうしたんだ?ずいぶんとうなされてたぞ。」

彼は寝起きとは思えないしっかりした口調で言った。

「……レイムさん」

「……いえ、何でもありませんヨ。」

道化師のような彼。彼の本心はにっこり微笑んだ笑顔の仮面に隠された。

まあ、彼に本当のことを教えてもらえるとは思ってないので、別にいい。だから

「…そうか……」

と言うにとどめた。

「それよりレイムさん。何か用があってきたんじゃないですカ?」

彼は、ベッドから身を起こしながら私にたずねた。

「ああ。じつはな、シャロンお嬢様がお茶にしようといっていたので誘いにきたんだ。今日はオズ様達も来ているし、晴れているからちょうどいいだろう?」

「めずらしいですネェ。君が誘いにくるなんて。」

たしかにめずらしい。だいたいはザクスが誘ってくるので。

「今日は午後から仕事が休みなんだ。最近忙しいからとルーファス様が休みをくださったのだ。私としてはあまり忙しい感じはしないのだが……。」

私は彼をみながらわけを話した。

そしたら目をそらされたので「?」と思う。なんだかおかしい。

「ザクス、どうした?さっきからなんかおかしいぞ。」

「いえ……。」

彼はそういうと、久しぶりにこの言葉を発した。

「ねえ、レイムさん。君はいいんですか……私と一緒にいて……。私は罪人なんですよ………。君には幸せになる資格がある。」

かつて何度も聞いた言葉。

彼の心と身体を拘束する”幸せ”の一言。

久しぶりだったので、私は多少驚いたが、すぐに呆れた。

「あのな、ザクス。私は自分が不幸だと思ったことは無いぞ。お前はどうなんだ?」

「…………私は幸せを求めてはいけませんから…。」

これほど悲しい答えがあるだろうか。彼は悲しそうに、でもはっきりとこの言葉を言った。

そんな彼をみて、私は反射的に思ったことを言っていた。

「なぜ……なぜいけないんだ。もうお前は幸せになっていいんだ。」

ああ。もうダメだ。こんな悲しそうな表情をされるとわからなくなる。

「でも、私はー」

がまんできない。

いってほしくない。

私は彼の唇をふさいだ。

同時に、彼の華奢で細い体を抱く。

彼の低い体温が伝わってくる。

私はしばらくそうしていた。









「レイムさん、苦しいです」

しばらくして、彼が言った。

私は思ったより強く抱いていたようだ。

「……すまん、ザクス。」

そして、ゆっくりと彼の背中にまわした腕をほどく。

幸せ、と彼は言った。

私の幸せ。それは彼に気持ちを伝えた時から決まっている。

「ザクス、お前は馬鹿だな。私はお前がいない世界なんて幸せではない。……お前を愛しているから」

本心だった。

「……馬鹿なのはレイムさんのほうです。」

言い返されたけど何も言えない。

その通りだと思ったからだ。

彼は私をおいて逝く。

そんな彼を愛してしまうなんて。

でも後悔はしていない。

彼が言った。

「では……最後まで、私の最後まで私を愛してくれますか。」

当たり前だ。お前がいなくなろうとも私はお前を愛したい。

まあ、そんなこと(後半部分)言ったら彼に心配?されるので言わないが。

「何度でも言おう。私はザクス、お前を愛している。」

「レイム………。」

ああ。なぜ彼はこんなに苦しまなければいけないのだろう。

罪人だから?

違う。もういいんだ。

お前は幸せになっていいんだ。

そういいたい気持ちをこらえて、私はただ願った。

ザクス、お前の幸せを私は願うよ……。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ