隠れ家

□セナーテの泉
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僕が驚きのあまり声も出せずにいると、
気配に気づいたのか彼女はこちらを向いた。


大きな焦げ茶色の瞳が、不思議そうにこちらを見つめている。




何故か冷や汗が出てきた。



彼女はさくらんぼ色の口を開けた。






「……ねえ、あなたも道に迷ったの?」


「…………へ?」







神々しいまでの容姿。
そこからは人間味など微塵も感じられない程だった。


そんな彼女から発せられた言葉。
あまりにも普通すぎて、唖然としてしまった。

謎めいた雰囲気。
そんなものは皆無である。




「だからぁっ‼
道に迷ったのかって聞いてるの‼
ちゃんと聞いてなさいよね」

「え……あ、ああ。
いや、薬草を採りに来たんだ。
兄さんに頼まれたから」

「へえ……
それにしてもきれいな目ね。
あなた、名前は?」

「…チトセ」



彼女はしげしげと僕の顔を覗き込んだ。

顔が熱く火照ってくる。


「ど、どうしたの……っ?」

「うん…なんでもない。
じゃあバイバイ。また会えるといいね」




さようなら、と言い、
彼女はひらりとホウキにまたがった。


「……っ
君の名前は…っ?」




―――――フウカ―――――



彼女が微笑んだ気がした。
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