Novel

□僕の仮面
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いつからだっただろうか?
俺が自分の笑顔がどれだかわからなくなっていたのは。
「涼太くん!」
そうやって女はみんな馴れ馴れしく俺のことを甘い声でよんで、俺の体に触る。
その度に臭い香水の匂いを我慢しては、笑顔を向けて「何スか?」っと低い声で女の耳元で言う。
俺は演技が得意な方だと思っている。
だからイライラしているときや面倒くさい時でも笑顔を向けていれば誰にもばれなかった。
どんなに嫌な時でも笑顔を見せて本音はかくしていた。
毎日がその繰り返し。
笑ってごまかす。
笑ってごまかす。
笑ってごまかす。
嫌なことを押し付けられても、バスケで上手くいかなくてミスしちゃったときも、モデルの仕事上手くいかなかったときも、毎日女子の相手するときも、
笑う。
ぜんぶぜんぶ同じく目を細めて同じく笑うんだ。
今日も同じく笑うー…。


「黄瀬くん」
透き通るような声が俺をよんだ。
「うわ、黒子っちじゃないスかー!どうしたんスか?」
いつのまにか後ろにいたから少しびっくりした…。
「今日、部活無くなったそうです。先生方の会議が入ったそうで…。」
「ふーんそうなんスか。わざわざ有難うっス」
黒子に向けていつものように笑った。
すると、いきなり黒子は下を向いて黙りこんだ。
「…………。」
「え…??黒子っちどうしたんスか???」
おどおどしていると、黒子がまた顔をあげて黄瀬の目を真っ直ぐ見た。
黒子はとっても悲しそうな表情をしていた。
(…え……?なんスか……?)
「黄瀬くん、君は最近ずっと笑ってばかりですね。」
黒子は口を開いていった。
「え……?」
「どうしてそんなに笑うんです?
失敗して嬉しいかったんですか?
…君が笑うときはいつだって何かミスしたり嫌なことがあったときばかりです。」
「は…?いきなり何いいだすんスか…?黒子っち…」
何で…黒子っちわかってるんだ……?
心の底からびっくりした。
何で何で何で…?
バレてなかったはず。
他のみんなにはばれてなかったはず。
上手くごまかせてたはず…?
「他の人をだませても僕はきずいたんです。」
黒子っちの目をみると、その瞳に俺が映っていて、俺は酷く焦った顔をしていた。
笑わないと、笑わないと。
じゃないと…
「何でそんなにもして、君は自分を押し殺そうとする必要があるんですか?
君はなんで毎日同じ笑顔を繰り返すんですか?
なんで…」
「うるさい!!!!!」
黒子っちの話をきくことを心が拒んで俺は大声で黒子っちに怒鳴った。
「俺の何がわかるっていうんスか???!!
俺だって…俺だって…本当は笑いたいッス!!!!
けど…けど…偽物の笑顔がへばりついちゃって笑うことできないんスよ!!
もう、俺は嫌なこともすべてごまかすことでしか、心が傷付かないようにする手段がないんすよ…。」
いつのまにか俺の頬に沢山の暖かい涙がつたっていた。
あれ……?
最後に涙を流したのはいつだっけ…?
あれ……?
最後にこんなに自分の思いぶつけたのはいつだっけ…?
あれ…?
「じゃあ僕が黄瀬くんと一緒に探してあげます。
君の本当の笑顔。
だから、自分を殺さないで。
前をみて生きてください。」
黒子っちも目から透き通る涙をながしていた。
「黒子っちぃ……」
俺は黒子っちを力強く抱きしめた。
黒子っちはなにもいわなかった。
少し、心にできていた傷が癒えたような気がした。

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